第32話 一番軽そうだったし
特定の魔物が大量発生することは、決して珍しいことではない。
虫とか動物なんかと、だいたい原理は同じだ。
例えば降水量の多さや暖冬といった環境の変化だったり、あるいは周期的なものだったり、様々な要因により引き起こされる。
ただし魔物の場合、濃密な魔力を浴びることで、凶悪化したり、繁殖力が増したりする場合がある。
まぁ、俺がざっと森を空から観察した感じでは、今回はこのケースではないと思う。
恐らくは何らかの原因によって、森の中におけるオークの食料が増え、それで例年よりも大量に繁殖してしまったのだろう。
ちなみにオークは肉食で、昆虫や動物、時には人間や魔物なんかも食べる。
もしこの大量発生を放置しておくと、その増えた食料も枯渇し、やがて食べ物を求めてどんどん人里に出てくる危険性がある。
さらにハイオークをはじめとした上位種の出現確率が高まり、場合によってはオークキングのような凶悪な個体が誕生するかもしれない。
「生憎とすぐに動けるような上級冒険者はあまりいないんだ。悪いが、調査しに行ってくれないか?」
そんなわけで、俺はギルド長からの直々の依頼を受け、再び森へと赴き、調査を行うことになった。
といっても、俺には普段の森の様子が分からないので、比較しながら報告するのが難しい。
「そうだな……ならば、彼らと協力するといいだろう。あの森のことを熟知した冒険者たちで、どのみち彼らにも同様の依頼をするつもりだった」
そこでギルド長から紹介されたのは、Bランクの冒険者たちで構成されたパーティだった。
俺よりも先に依頼を引き受けて、しばらくオークの森を探索していたそうだが、その異変に気が付いて、すぐにギルドへと報告に戻ってきたという。
「リーダーのバダクだ。実は先ほどからずっと君のことを見させてもらっていた。あれだけのオークを単身で狩り、しかもワイバーンまで……」
どうやら彼らは、俺が最初に受付窓口のところでオークを出すところから一部始終、俺の様子を見ていたらしい。
そう言えばいたような気がする。
Bランク冒険者だというし、それなりの実力者たちなのだろうが……。
正直言って、一人で行く方が恐らく早いだろうし、気楽だ。
……さて、どうするかな。
思案しながら、俺は彼らのパーティメンバーたちを見回す。
メンバーは全部で五人いて、そのうち女性冒険者は一人だけ。
肌の露出の多い衣装を着た、色っぽい感じのお姉さんだ。
魔法の杖を持っているので、魔法使いだろう。
俺は彼女を指さして言った。
「じゃあ、お姉ちゃんだけ借りてもいい?」
「え、あたし?」
いきなり名指しされて、ぽかんと口を開ける。
「うん。一人だけいたら十分だから」
「ちょっ、マジで飛んでるんだけどおおおおおおおおっ!?」
魔法使いのお色気系お姉さんの叫び声が、大空に響き渡る。
「うん、飛んでるよ。この方が速いでしょ」
「は、速いけど!? 速いけどそれ以上に怖いんだけど!?」
俺は彼女をリントヴルムに乗せ、空を飛んでいた。
今の俺では魔力不足で、何人もの人間に飛行魔法を使うことはできない。
だが一人くらいだったら、こうして愛杖のサポートも受けつつ、宙を舞うことが可能だった。
それでお姉さん――チルダというらしい――一人を、同行者として選んだのである。
なお、チルダがリントヴルムに跨り、俺は彼女の胸の辺りに張り付く形だ。
『マスター? なぜわたくしがこの汚らしい尻に敷かれなくてはならないのですか?』
『仕方ないだろ。俺が彼女を背負うわけにはいかないんだからさ』
『では、なぜ他にも何人かいたにもかかわらず、たった一人しかいない女性を選んだので?』
『いや、そこはほら、重量的な問題でさ。彼女が一番軽そうだったし』
『……本当でしょうか?』
そう、決して女だから選んだわけではない。
ましてや彼女の胸が大きかったからでもない。
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