第31話 ちょっと赤子使いが荒くないかな
領地を守る責任があるのは国や領主であり、そして国や領主は自ら騎士団を組織・運営するなどして、その責務を全うしようと努力している。
ただ、現実的な問題として、騎士団にできるのは、せいぜい野盗や犯罪者などを取り締まったり、弱い魔物を掃討したりする程度だ。
というのも、突出した力を持つ個人は大抵の場合、自由とより高い報酬を求めて、冒険者になってしまうからである。
そのため国や領主とその領内の冒険者ギルドは互いに契約を結んでおり、危険度Bを超えるような凶悪な魔物が出現した際は、騎士団に代わり、冒険者ギルドが対処することとなっているのだ。
……というのが、この時代の冒険者や冒険者ギルドの置かれた立場らしい。
前世の頃とは大違いである。
当時の冒険者と言えばもっとアンダーグラウンドな存在で、国や領主からは煙たがられ、協力関係を築くなどあり得ない話だったのだが。
「ワイバーンは北の山脈地帯に棲息していて、滅多に降りてこないはずなのに……。オークの森のこともあるし、しばらく忙しくなりそうね……」
ワイバーンが現れたという報告を受けて、イリアが溜息を吐き出す。
これもギルドが対応するべき案件なのだろう。
ワイバーンの危険度はB+だという。
これに対応できる冒険者は限られており、空を飛べる魔物でも問題ない者となると、さらに少ないそうだ。
手配するだけでも大変らしい。
ちなみに前世だとワイバーンが現れたと知れば、即座に騎士団が討伐に赴いていた。
だが大抵は冒険者がそれを横取りしていたっけ。
ワイバーンの素材は高く売れるからな。
要するに取り合いになっていたわけだ。
……しかし騎士団にも冒険者にも、ワイバーンくらい簡単に討伐できる人間がゴロゴロいたと思うんだけどな。
『マスター。この時代の人間たちは、当時よりも幾らか弱体化しているのかもしれません』
それは俺も薄々感じていたところだ。
まぁこの街が特別、人材が不足しているだけかもしれないが。
ただ、幸い今回はイリアが頭を悩ませる必要はない。
というのも、森から帰ってくる途中、まさにそのワイバーンに遭遇したからだ。
「ねぇねぇイリアお姉ちゃん」
「? どうしたの、レウスくん?」
「ワイバーンだったら、たぶん僕が倒したよ」
「……へ?」
俺は亜空間の中から巨体を取り出した。
「ひっ!? わわわわっ、ワイバーンッ!?」
「うん、そうだよ」
「そうだよって!? どうしたのよ、これ!?」
「途中で見かけたから倒しておいた」
「倒しておいたって!? ワイバーンは空を飛んでるから、熟練の冒険者でも討伐は容易じゃないのよ!?」
冒険者たちが恐る恐るワイバーンの死体へと近づいてくる。
「でけぇ……」
「ほ、本当に死んでるのか……?」
「見たところどこにも外傷がないんだが……」
口の中から脳を撃ち抜いたからね。
外から見たところで分からないだろう。
「おいおいおい、随分と騒がしいと思って来てみたら、何なんだ、これは!? ワイバーンではないか!? こ、こいつは本物か!?」
「ギルド長!」
そこへやってきたのは、ギルド長のおっさんだ。
「じ、実は……」
イリアが状況を説明する。
「やばい奴だとは思ってはいたが……まさかワイバーンまで倒しちまうとは……」
戦慄したような顔でギルド長が俺を見てくる。
「だが、幾ら強くたって、ワイバーンを倒すのは容易ではない。しかも見たところ何の損傷もないし……一体どうやって倒したんだ?」
「空を飛んで」
俺はその場で飛行魔法を使ってみせる。
別にリントヴルムの補助がなくても飛べるので、そのままぐるぐるとギルド長の頭上を回転してみた。
「平然と使ってやがるが、熟練の魔法使いですら空を自在に飛ぶのは難しいんだぞ……」
呆れたような顔をするギルド長。
俺はイリアの胸の辺りまで降りてその場で停止した。
すると本能的なものだろう、イリアが俺を抱き締めてくれる。
……今後もこの手を使わせてもらうとしよう。
「マジでとんでもない赤子だな……すでにAランクでもおかしくないくらいか……」
「実はそれだけではないんです、ギルド長……」
「まだあんのか?」
それからオークの話を聞かされたギルド長は、
「いやもうAランクどころじゃなくね?」
先ほどオークニ十体を持っていったばかりだったので、ワイバーンもいったんは亜空間の中で保管しておくことにした。
それからギルド長より直々に、俺に特別な依頼が来た。
オークの大量発生状況の調査、および可能な限りのオークの討伐だ。
ついでに、もし道中においてまた新たなワイバーンを見かけるようなことがあったら、ぜひ討伐しておいてほしいと言われた。
……ちょっと赤子使いが荒くないかな?
◇ ◇ ◇
「どう考えても赤子に出すような依頼じゃないですね、ギルド長……」
「いや、イリア、あいつはどう考えても赤子のカテゴリーじゃないだろ……」
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