第30話 たぶん僕が倒したよ

 解体場は騒然となっていた。


「あれをたった一人で狩ってきただと……?」

「ハイオークまでいるんだが……」

「傷一つ付いてねぇなんて……」

「そもそもあんな量、どっから出してきたんだよ……」


 興味本位からか後を付いてきた冒険者たちも、理解できないという顔で呻いている。


 解体師のおっさん、ボドックが興奮したように言う。


「こ、こんな綺麗に仕留められたオークなんて初めて見たぜ……っ! それにまだ身体が温けぇし、今にも動き出しそうだ……っ! おい、こいつは一体どうやったんだっ!?」

「魔力を石のように凝縮させて、それを頭にぶつけたんだ」

「そ、そんな真似が可能なのかよ……?」


 と、そこでボドックはハッとして、


「って、すぐに解体しねぇと! 血抜きもまだみてぇだし、この量じゃ、トロトロしてたら最後の方は鮮度が落ちちまう!」

「それなら一部はいったん仕舞っておくね。また改めて出すよ」


 俺はニ十体ほどを残して、それ以外は亜空間に保存しておくことにした。


「き、消えちまった……」

「マジでどこに仕舞ってんだよ……」

「も、もしかして超貴重な魔道具、アイテムボックスじゃねぇか……?」

「だが見たところ何も持ってないが……」


 アイテムボックスかー。

 時空魔法が使えない人でも使えるよう、同様の効果を持たせた魔道具のことなのだが、俺は前世で結構な数を作ったっけ。


 売ればめちゃくちゃ高値が付くため、一時期それでお金を稼いでいたことがあるのだ。

 もちろん時空魔法を使える俺自身には必要のない道具だった。


 そういえば世の中には、入れていても普通に時間が経過してしまうものや、容量がめちゃくちゃしょぼいものなど、劣悪品も多く出回っていたっけ。

 恐らくレベルの低い使い手が作ったものだろう。


『それが劣悪品というより、マスターが作成されるアイテムボックスの質が高過ぎただけではないでしょうか?』







 ひとまず解体場から受付窓口のところまで戻ってきた。


「え、ええと……じゃあ、とりあえずニ十体分のオークの報酬から渡すわね……」


 まだ困惑している様子のイリアが、依頼達成を認めてくれ、まずはニ十体分の報酬を渡してくれることになった。

 今までの俺は無一文だったが、これでようやくお金が手に入ることになる。


「状態がすごくいいものだったから、一頭当たり金貨一・二枚で買い取らせてもらうわ。ニ十体で金貨二十四枚ね。ただ、普通はそこから解体費用を差し引くんだけれど……ボドックさんによると、すごく綺麗に倒されているから解体もしやすいみたいだし、これだけの数を納入してくれたんだから、今回はタダで構わないって」


 となると、残り三十体分で、さらに金貨三十六枚になる計算か。

 その中にはハイオークが二頭いるので、もう少し上乗せされるはずだ。


「た、大変だ!」


 そのとき大声と共に、冒険者ギルド内に飛び込んでくる人がいた。

 シーフっぽい感じの若い冒険者だ。


 周囲から注目を浴びる中、彼は息を切らせてこの受付窓口まで駆け寄ってくる。


「わ、ワイバーンだ! ワイバーンが出た……っ! ここから西に行ったところの空を旋回していた! この街からもそう遠い場所じゃない!」

「なっ、ワイバーンですかっ!?」


 イリアとは別の受付嬢が応対し、驚きの声を上げた。


「ああ、間違いない! 冒険から戻ってくる途中に見かけたんだ! すぐにギルドに知らせた方がいいと思って、パーティで一番足の速い俺だけ急いで帰ってきたんだ! もし周辺の小さな村や街が襲われたら一溜りもない!」

「知らせていただいてありがとうございます! すぐに上級冒険者に討伐依頼を……ああ、でも、今は飛行系の魔物に対応できそうな冒険者やパーティは……」


 話を聞いていたイリアが青い顔をして言う。


「ワイバーンは北の山脈地帯に棲息していて、滅多に降りてこないはずなのに……。オークの森のこともあるし、しばらく忙しくなりそうね……」

「ねぇねぇイリアお姉ちゃん」

「? どうしたの、レウスくん?」

「ワイバーンだったら、たぶん僕が倒したよ」

「……へ?」


 俺はそう言って、亜空間の中からワイバーンを取り出したのだった。

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