第22話 俺の傷まで癒えてるんだが

「っ!? マリシアさん!? す、すぐに治癒魔法を!」


 真っ青な顔で倒れ込んだマリシアに、コレットが慌てて駆け寄る。

 さらに他の試験官たちもポーションを取り出しながら、近づいて、


「こ、この傷は……深すぎる……」

「内臓まで届いてるわ! 並の治癒魔法とかポーションじゃこれは……」


 その傷の酷さに息を呑んだ。

 マリシアは息を荒らげ、今にも消えそうな声で言う。


「そうだな……多分、アタシは、もう、ダメだ……」

「そ、そんなこと言わないでくださいよ、マリシアさん! あたしはこれでも治癒魔法には自信があるんです!」


 必死になって治癒を施すコレット。

 確かに本人が言う通り、彼女の治癒魔法はなかなかの腕前のようだ。


 だがゴブリンロードに斬られたマリシアの背中からは、すでに致命的なほどの量の血が流れていた。

 このままでは治療が終わる前に、マリシアの生命力が尽きてしまうだろう。


 俺はリントヴルムの先端をマリシアの傷口へと向けた。


「っ!? ちょっ、邪魔しないでください!」

「僕に任せてよ。これくらいの傷なら一瞬で治せるから」

「え?」

『リントヴルム、しばらく貯めておいた魔力で補助してくれ』

『了解です、マスター』


 俺は最高位の治癒魔法を発動する。


「エクストラヒール」


 次の瞬間、猛烈な治癒の光が弾けた。

 見る見るうちにマリシアの背中から流れていた血が止まり、そして深い傷口も塞がっていく。


 さらには失われた血が再生していったことで、血色も良くなっていった。


「え、エクストラヒール!?」

「まさか、ありとあらゆる傷を癒すという、伝説級の治癒魔法……っ!?」

「こんな赤子が……」


 ほとんど意識を失いかけていたはずのマリシアが、ゆっくりと身体を起こした。


「あ、アタシは……もしかして、助かったのか?」

「マリシアさん!? だ、大丈夫ですか!?」


 周囲が心配する中、マリシアはその場に立ち上がる。


「死にかけてたのが嘘みてぇにピンピンしてやがる……むしろ、身体の底から力が湧き上がってくるかのような……」


 エクストラヒールは失われた体力や、抱えていた持病なんかも回復させるからな。

 さらに時間をかければ、身体の欠損なんかも治せてしまう。


 まぁ今の俺では、まだそれを可能にするだけの魔力がないが。

 リントヴルムに充填させていた魔力を消費して、ようやくエクストラヒールを使えたくらいだし。


「おい、見ろよ!? 俺の傷まで癒えてるんだが!?」

「俺もだ! いつの間に!?」


 近くにいた連中も、エクストラヒールの余波を受けて傷が治っていた。


「余波だけで傷が治るとか……」

「さすが伝説級の治癒魔法……」

「いやいや、何でこんな赤子がそんなん使えるんだよ……」


 コレットが俺に詰め寄ってきた。


「どういうことですか!? 今の、エクストラヒールですよね!? 全治癒魔法使いたちが目指す最終到達地点ですよ!? 何で生後二か月の赤子がそんなの使えるんですか!?」

「うーん……」


 さすがに前世が大賢者だったとは言えない。

 下手したら赤子ということで通らなくなって、抱っこしてもらえなくなるかもしれない。


『……マスター』


 なんと説明したらいいのか少し悩んでから、俺は言った。





「才能かな?」





「「「それだけで納得できるかあああああああああっ!!」」」


 ……なぜか全員から一斉にツッコまれたんだが?


「と、ともかく、テメェのお陰で助かったぜ。なんにしてもアタシの命の恩人だ。……そもそも、あのときテメェが注意喚起してくれてなかったら、アタシはゴブリンロードの剣で即死してたかもしれねぇしな」


 僅かに反応できたからこそ、あの傷で済んだと告げるマリシア。


「そしてよ~~く理解できた。テメェがとんでもなくヤバい存在だってこともな。さっきのゴブリンを殲滅させた魔法といい、今の治癒魔法といい、もはや赤子が喋ってる程度は常識の範囲にすら思えてきたぜ」

「ゴブリンだって喋ってたくらいだしね」


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