第23話 それを赤子が言うか

 実技試験を終えて、最終的な合否が試験官のマリシアから発表されることになったのは、翌日のことだった。

 誰もが緊張の面持ちで結果を待つ中、マリシアが口を開く。


「再試験だ」

「「「再試験?」」」


 思ってもみなかった言葉に皆が驚く。


「ゴブリンロードがいるなんて、事前の情報にはなかった。もちろん、あんな馬鹿みてぇな数のゴブリンが巣食ってやがることもな。最初から分かってりゃ、テメェらみたいなひよっこどもを連れて突入したりなんかしねぇよ。熟練の冒険者パーティが協力して、どうにかなるようなレベルだったぜ」


 やはり想定外の事態だったらしい。

 受験者たちのレベルを考えたら、明らかにおかしな難易度だとは思っていた。


「アタシら試験官も評価するどころじゃなかったし、今回の試験は無効だ。後日、改めて実技試験を行うことにする」


 それを聞いてホッとしたように息を吐く受験者たち。


「た、助かったぜ……俺なんて何もできなかったしよ」

「……後先考えずに突っ込んであんなことになっちまったから、てっきり不合格かと思ってたぜ……」


 彼らとしても再試験には納得しているようだ。


「だがテメェら、肝に銘じておくんだな。冒険のときには今回みてぇなイレギュラーは珍しいことじゃねぇ。どの依頼にも難易度が設定されてるが、低ランクの魔物討伐だと余裕こいて実際に行ってみたら、実際には全然要求ランクが違ってた、なんてことは日常茶飯事だ」


 ごくり、と受験者たちが唾を飲み込む。


「今回の件で、やっぱり冒険者になる覚悟が薄れたって奴もいるだろう。そういう奴はもちろん再試験を辞退したっていいぞ。いや、別に煽ってるわけじゃねぇよ。最初に会ったときも言ったが、冒険者なんかより、大人しく普通の仕事に就いた方が間違いなく賢いからな。ついさっき死にかけたアタシが保証するぜ、くははははっ!」

「「「(笑えない……)」」」


 恐らく何人かは実際に再試験には来ないだろうと思われた。

 明らかにそういう顔をしているのが、ちらほらいるし。


 しかし再試験か……。

 仕方ないとはいえ、面倒だな。


「今のところずっと無職だし、早く自力で稼げるようになりたいんだけど……」

「「「それを赤子が言うか!?」」」


 ボソッと呟いたら、みんなからツッコまれてしまった。


 まぁ幸いファナが家を勝手に使っていいと言っていたし、食料も亜空間に入っているし、そんなに困る状況ではないが。


「いや、テメェだけは合格だ」

「え?」


 そんなことを考えていると、マリシアからいきなり合格を言い渡されたので驚いた。


「いいの?」

「どう考えてもテメェに再試験なんて意味ねぇだろ。現時点でBランクのアタシより圧倒的に強いしよ。テメェの場合はさっきの話とは別だ。とっとと冒険者になって、どんどん高難度の依頼を熟してくれ」


 というわけで、俺は無事に冒険者になることができたのだった。




    ◇ ◇ ◇




「おい、ギルド長」

「マリシアか。おおよその話は聞いている。ゴブリンロードがいたんだってな? 悪かった。うちの調査不足で、危険な目に遭わせてしまった。申し訳ない」


 ギルド長ドルジェは、部屋にボーイッシュな女冒険者が入ってくるなり、立ち上がって頭を下げた。


 すでに第一報は受けている。

 彼女が試験官を務めた冒険者試験の実技試験において、想定外の事態が起こり、危うく参加者たちが全滅してしまうところだったのだ。


 試験の内容については、ギルド側が決めている。

 試験官はあくまでギルドからの依頼を受け、受験者たちの評価を行うだけで、今回の一件に何の落ち度もなかった。


「んなことはどうでもいい。いや、よくはねぇが、今はそっちよりも、だ」


 だがマリシアが問い詰めたいのは、どうやら別のことらしかった。


「何なんだよ、あの赤子はよ? 喋ったり歩いたりするだけでもあり得ねぇってのに、ゴブリンロードをあっさり剣で両断しちまうわ、大量のゴブリンを魔法で簡単に殲滅しちまうわ、エクストラヒールを使うわ、現時点でこの街の冒険者の誰よりも有能だ。一体どっからあんなのが湧いてきた?」

「え、なにそれ……儂が想定してた百倍くらい凄いんだが……」

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