第２１話 こんなヤベェ奴がいるなら
俺は腰が抜けて地面にへたり込んでいるコレットの胸から飛び降りると、驚いているゴブリンロードへと斬りかかろうとする。
しかし得体の知れない赤子に警戒したのか、ゴブリンロードはすぐさま飛び下がって距離を取った。
「ド、ドウナッテイル……？ 人間ノ赤子ニ、コノヨウナ真似……」
「逃げても無駄だよ」
「～～～～ッ！？」
ゴブリンロードからすれば、十分な距離を取ったつもりだったのだろう。
だがそこはまだ俺の間合いの内側だ。
一足飛びで距離を詰め、脳天へとリントヴルムを叩きつける。
慌てて剣で防ごうとしたが、遅い。
ザンッ！！
リントヴルムの刀身が、ゴブリンロードを頭頂部から真っ二つに両断した。
ゆっくりとその身体が左右に泣き別れていく。
「ア、ア、ア……アアアアアア～～～～ッ！？」
ぐしゃり。
左右の身体が同時に地面に倒れ込んだ。
「ご、ゴブリンロードを……」
「一撃で……？」
「熟練の冒険者でさえ、苦戦するはずのゴブリンロードだぞ……？」
驚愕している試験官と受験者たち。
コレットは「あわあわあわ」と謎の呻き声を発している。
「「「～～～～～～～～～～ッ！？」」」
一方、自分たちの統率者が殺され、大いに慌てたのがゴブリンたちだ。
先ほどまでの威勢はどこへやら、どうしたらいいのか分からず、ただ「ギャアギャア」と喚いている。
「なにボサッとしてやがる！ 今のうちに奴らを殺せるだけ殺せ……っ！」
「「「は、はいっ！？」」」
マリシアの怒声を受けて、受験者たちが一斉に攻勢へと転じた。
数で圧倒していたゴブリンたちだが、やはりゴブリンロードの死は大きかったのだろう。
なかなか混乱から立ち直ることはできず、あっさりと形勢は逆転した。
「ギャギャギャ！」
「グギャ～～ッ！」
「あいつら逃げてくぞ！」
逃げ出すゴブリンも少なくない。
蜘蛛の子を散らすように、横穴という横穴に飛び込んでいくゴブリンたち。
このまま巣穴に散らばられては、殲滅するのも面倒だ。
俺は杖モードに戻したリントヴルムを掲げると、その先端に無数の光塊を出現させる。
「あの赤子、今度は何をする気だ……？」
「な、なんて魔力だよ……っ？」
「てか、魔法まで使えんのか！？」
そしてその光塊を解き放った。
「追跡型広域駆除魔法――〝ハンティングシャワー〟」
ドドドドドドドドドドドドドドドッ！！
放たれた無数の光塊が、次々とゴブリンの頭に直撃、貫通していく。
穴の奥へと逃げたゴブリンも例外ではなく、しっかり追跡して仕留めていった。
まぁ相手がゴブリンなので、かなり威力を抑えている。
前世の俺が本気で放ったときは、数万規模の
しばらくあちこちから「ギャッ！」「グギェッ！」というゴブリンの悲鳴が聞こえてきた後、やがて嵐が終わった後のように静かになった。
俺は索敵魔法を展開させ、念のためゴブリンの生き残りを探った。
「……うん、巣穴にいたゴブリンはこれで全部倒せたかな」
それらしき反応は感じられない。
今回の試験の目的だったゴブリン殲滅はひとまず完了だ。
「「「……」」」
皆が信じられないような目で俺を見てくる。
他の受験者たちのアピールの場を奪ってしまう形にはなってしまったが、もはやそれどころではなかったし仕方ないだろう。
怪我を負っている者や、ゴブリンロードの登場によって戦意を失ってしまった者も多い。
中でも負傷の程度が酷いのが、試験官のマリシアだ。
「ったく、予想を超え過ぎてんだろ……ギルド長め、こんなヤベェ奴がいるなら、あらかじめ教えておけってんだ…………がはっ……」
真っ青な顔で倒れ込むマリシア。
ゴブリンロードに斬られたその背中は、彼女の血で真っ赤に染まっていた。
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