第7話 消し炭にしてやれ
恐らくあいつがかーちゃんの言う北の主だろう。
並のタラントラの数倍の巨体。
狼たちのボスであるかーちゃんに匹敵する大きさで、身体に比べれば細いはずの脚ですら、丸太のような太さがある。
「グルルルルルッ!!」
そいつの糸にやられたのだろう、かーちゃんは全身に絡みつく糸から抜け出せずに藻掻いていた。
「「「ワオオオオンッ!!」」」
狼たちが一斉に救出に向かうが、そうはさせまいと立ちはだかるのは蜘蛛たちだ。
その間に、身動きを取れないかーちゃんの身体へ、巨大タラントラが噛みついた。
「~~~~~~~~ッ!?」
俺もすぐに援護に駆け付けようとしたが、やはり蜘蛛どもが邪魔でなかなか前に進むことができない。
「リンリン、杖モードだ」
『……はい、マスター』
俺は再びリントヴルムを杖モードに戻すと、その上へと跨った。
「悪いな、地上だと近づけなさそうだから」
「ワウッ!?」
俺を背中に乗せていた狼が唖然とする中、杖に乗って空へと舞う。
そして戦場をひとっ飛びして、一気に北の主の頭上へ。
「よくもうちのかーちゃんを。あのクソ蜘蛛め、全力のブレスで消し炭にしてやれ」
『となると、マスターが前世で充填しておいた魔力が底を尽き、しばらく休止状態に移行することになりますが、構いませんか?』
リントヴルムは強力な杖ではあるが、その分、めちゃくちゃ魔力を消費する。
膨大な魔力を持つ前世の俺なら気軽に扱えていたが、今のこの身体では、魔力を充填するだけでも何日もかかってしまうだろう。
「構わん。やれ」
『分かりました、マスター』
竜の意匠が大きく口を開ける。
猛烈なエネルギーがその口腔に集束していき、バチバチッという雷鳴のような破裂音が鳴り響く。
「~~~~ッ!?」
殺気でも感じ取ったのか、巨大タラントラの複眼がこちらを向いた。
他の蜘蛛や狼たちも只ならぬ気配を察し、戦いを中断して思わず天を仰ぐ。
次の瞬間、猛烈な光のブレスが巨大タラントラへと降り注いだ。
ドオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
爆音が轟き、ボスタラントラの巨体が一瞬にして消し飛ぶ。
それどころか、勢い余って地の底まで続くかというくらい、地面を深々と抉ってしまった。
「……ちょっとやり過ぎたな」
『マスターが全力のブレスで、と申されましたので』
まぁいい。
敵のボスを肉片すら残さずに消滅させたのだから十分だ。
俺はまだ糸に囚われたままのかーちゃんの近くに着地する。
『……今のはさすがの私もチビりそうになったぞ』
『それより大丈夫か? 随分と苦しそうだが』
やはり先ほど噛みつかれたとき、巨大タラントラの毒を貰ってしまったらしい。
かーちゃんはぐったりとしている。
『生憎ともう私はダメだろう。毒にはそれなりの耐性があると自負していたが、奴の猛毒は予想以上だった。これは恐らく治らぬ。……あの糸といい、完全に奴の能力を見誤った……私が油断したせいだ。縄張りの主として失格だな。この毒は当然の報いと言えるだろう』
いつになく気弱で、自罰的なかーちゃんである。
「アンチポイズン」
俺にかかれはこれくらい、簡単に解毒できるんだけどな。
『っ……なんだ? 身体が楽になっていく……?』
『解毒魔法を使ってるんだ』
『あ、赤子のくせに魔法まで使えるとは……』
そういえば今まで身体強化魔法とか、見ただけでは分からない魔法しか使ってなかったっけ。
俺の身体能力も素のものだと思っているかもしれない。
やがて毒が抜けたようで、かーちゃんはすっかり元気になった。
一応、回復魔法で傷も癒しておく。
ボス蜘蛛がやられたことで、タラントラたちは文字通り蜘蛛の子を散らすように逃げていったようだった。
かーちゃんも無事で、狼たちは口々に勝利の咆哮を轟かせた。
……あちこちしょんべん臭いのは、多分さっきのブレスでビビッて失禁してしまった奴が沢山いたせいだろうな、うん。
こうして蜘蛛の侵攻を退け、狼たちは無事に縄張りを護り切ったのである。
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