【FGA:24】MCの提案


「はっ……なんだよ、コレ……意味が分かんねぇぞ……」



 駆けつけた亜蓮の第一声は──その一言だった。事実、動転する様に息を切らしたテレサから伝えられたのは「 『STRAYDOGSストレイドッグス』の3人が大変だ」という事だけだったからだ。

 何か手続き不備か何かのトラブルでもあったのだろうか──そう楽観視しながらで来た自分に不快感を覚えるほど──目の前で繰り広げられていたに亜蓮は夜風にあたり忘れたはずの怒りが再び"ふつふつ"と湧いてくる。



「さっきは──まだが強かったぐらいだったじゃねえか……なんで、なんで今──こんな事になってんだよ……っ!!」



 亜蓮がそう言い今まさにコートと観客席を隔てる柵を乗り越えようとした時──「ブーッ」と一つ、前半を終えるブザーが、目の前の状況など知らない関係ないと言っているかの様に、無常にも会場に鳴り響いた。


わあああああああああ!


 そのブザーが無ければ、コートに乱入して大乱闘でも繰り広げてやろうかと言わんばかりの身の乗り出し方をする亜蓮に、先ほどよりも一層強くなる観衆の声が亜蓮かれが──否、亜蓮かれらがである事を伝える。

 鳴り止まぬそんな歓声が、亜蓮を冷静にさせると──静かにテレサとジェラミーの方へ振り向き、こう呟くように訊ねた。



「今から……今からオレが、コートに立つ事はできるか?」



 変わらない表情を浮かべるジェラミーは無言で、しかし娘は影のさした表情で俯き加減で「それは……不可能ですよ……エントリーは、ずっと前に切られて……途中参加は基本ですから……」と答えた。

 から期待はしていなかったが──至極当たり前の回答が返ってきてしまい、行き場の無い怒りをどこにぶつけようか画策している亜蓮の前に──突如、コート端からこの大会の運営スタッフか、担架を2台、急ぎの駆け足で持ってくると比較的軽症のプリドと一言、二言交わし"さっ"と手際の良い動作で2人の大男を軽く担架に乗せ、さっさとコートから出るようにこちらへ向かってきた。

 途中、ジョーからスタッフに「待った」がかったのか、コートから立ち退く出口に近い席の、丁度ジェラミーたちがいるあたりの前で止まった。



「悪ぃなジェリー、テッサ……お前らにだけはカッコ悪ぃとこ見せたくなかったんだが……相手が相手だったぜ」



 それだけ言うと後は「ふっ」と一つ悲しいような笑いを漏らすと「行ってくれ」とスタッフに声をかけ、"さっ"と観衆の中へと消えて行った。



「おぉーっと! ここでまさかの『STRAYDOGSストレイドッグス』のジョーとエンジャミが強制退場ドクターストップだーっ! アンドロイドチーム『チャンピオンズ』の猛々しいプレーの数々に、さすがの『STRAYDOGSストレイドッグス』もなす術無しだった様だーっ!!」



 止まぬ観衆の声に応じる様にMCもまた、煽る様な実況を入れる。その実況にもまたイラつきを感じる亜蓮の腕を"ぐっ"と雷人は掴んだ。

 もはや僕たちには止める術も、仇を取る術も、何もないんだよ──とでも言いたげな瞳で見つめてくるものだから、亜蓮もやっと今目の前の現実を受け入れ、力無く"どさり"と席へ沈んだ。

 反面、そんな渦中のコートにはもはや『STRAYDOGSストレイドッグス』というチームは存在せず、ただ1人、怪我の度合いは軽症ではあるが──立ち回っていたせいで、運動量が必然的にいつもの倍以上になりスタミナ切れを起こしていたプリドと──ただひたすらに悪い笑みを浮かべる『チャンピオンズ』の3人が残っているばかりであった。

 今季の『ザ・ストリート・オブ・アルファルファ』はアンドロイドたちの優勝で終わりか──ぽつり、ぽつりと周囲から聞こえてくる声にいよいよで終わりという現実が見えて来た頃──流石に耐えられなかったのか、プリドにテレサが悲鳴を上げる。

 そして「きゃあ!」と言う声を発したのと同時に柵を越え、コート端に待機している待機スタッフよりも早く彼女の元へと駆けつけるとテレサは"ぎゅっ"とプリドをただ抱きしめ「プリドさぁぁっん」と遂に大きな声で泣き出してしまった。

 突如、見知らぬ少女が柵を越え乱入してきたものだから──プリドが膝をついたのを珍しがり、また面白がっていた観衆からは酷いバッシングとブーイングが先ほどの歓喜の声から一転、テレサとプリドを覆い被さる様に降りかかった。

 そんな光景を見て、いよいよ我慢の限界が来たのか──「もうオレを止めんじゃねぇ……!」と抱き抱える様に亜蓮を抑える雷人の腕を振り払い、柵を越えようとしたその時────



「う〜〜ん、つまらない……。みんなぁ、つまらなくはないかぁっ!?」



というMCの声がまるで鶴の一言の様に会場に響き渡った。

 「どう言う事だ?」──と静まる会場の観衆に調子の良い声をしたMCは続ける。



「確かに『チャンピオンズ』も『STRAYDOGSストレイドッグス』も最高のパフォーマンスを見せてくれたの事実だーっ! だがみんなぁ! 試合時間ゲームクロックを見て欲しい……!」



 そう言うとMCは"ばっ"と大型時計タイマーが設置されているコートの中央正面の壁を指さした。釣られて観衆の目線もそこへ集まると──ハーフタイムが残り3分を切ったあたりの時間が映っていた。



「あと3分もすりゃ……ハーフタイムは終わる。だがーっ! そこで試合ゲームも終わるのは……つまらないっ! そう、つまらないだろうみんなぁっ!!」



 勢い込むMCに「何が言いてんだーっ!?」と観衆の誰かが疑問を投げつける。

 MCは「」と言わんばかりのにやけ顔を見せると──メイクを宙に放り3回転もしたあたりで"がばり"と勢いよくキャッチすると、今日1番か──ハイテンションな大きい声でこう高らかに宣言した。



「後半戦……『チャンピオンズ』と戦いてぇっていう3人やつらは居ねーーーーっかーーーーっ!!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る