【FGA:23】ラフプレー


 をバスケットボールの試合ゲームと呼ぶには──いささかだろうと──観衆は口を揃えて言うだろうか。

 いや、""なんて言葉では足りないほど──その試合はが過ぎた。


『ザ・ストリート・オブ・アルファルファ』の決勝戦。


 『大地の牙グランドファング』"ティラン・ L・ヴィンスケイト"率いるトロート島爬虫類人レプテリィアン代表のチーム選手のうち2名がが会場に現れなかった為、彼らの代わりに出場したのは──工業都市『デストロイ』が誇る精鋭アンドロイド『荒くれ者』"デイ=V_13号改2型"率いる3x3スリーバイスリーチームだった。


 そして、彼らの相手になった相手こそ──前々の大会においてブロック優勝したチーム『傀儡師マリオネットマスター』"プリド・ラグストヤ・コヴィーチ"率いる人間チーム『STRAYDOGSストレイドッグス』であった。


前半。


 この大会は前後半15分インターバル10分の計40分1試合で行われるのだが──その前半、観衆は、否、は戸惑いを感じていた。


何故なら。


 アンドロイドチーム『チャンピオンズ』(随分と他チームに喧嘩を売るような名前だが)のバスケットは試合展開を作っていたからだ。

 側から見れば、彼らチャンピオンズのバスケットは基本的に基礎に忠実なではあるのだが──『荒くれ者』"デイ=V_13号改2型"がPGポイントガードとして試合を組み立て、『厄介者』"ジョー=G_14号プロトタイプ"が SFスモールフォワードとしてドライブやキックアウト【※1】でとバスケットの基本戦術を用い、そして『ならず者』"ボー=B_15号初期型"がCセンターとしてリバウンドや漏れたボールを押し込むといった──側から見れば、なんとも理想的なバスケットであるのだが──。



「ぐっ…………!」



 『STRAYDOGSストレイドッグス』のPG/PFポイントフォワード"エンジャミ・ビッド・サイモン"は前半がもうすぐ終わるというところで──端無く膝をついた。


わああああ。


 エンジャミに対する罵声や、『チャンピオンズ』のに対する、どちらともとれる歓声が入り混じり──もはや、それらを人の声だと認識する事さえできないような合唱チャントが会場に響き渡る。

 そんな中エンジャミは右足首を"ぐっ"と抑えると悔し涙を目の端に浮かべた。

 何故、エンジャミになってしまったのか、というと──先ほどリバウンド争いで『ならず者』"ボー=B_15号初期型"と接触した右足に鋭い痛みを感じたからだった。

 、さっきのリバウンドの争いだけでない───ディフェンスの時も、オフェンスの時も、果てには場所ポジション争いでさえ──な肘打ちや足を踏まれたりしていたダメージが積もりに積もって──たった今、この瞬間の頃にまるで火山の噴火の様に"どっ"と爆発したのであった。



「おい……エンジャミ……お前、大丈夫か?」



 そんな彼を見かねたのか──同じ 『STRAYDOGSストレイドッグス』のメンバー"ジョー・エンズ・バード"が心配して駆け寄ってくる。

 「あぁ、大丈夫だ。問題、ない……」──もはや強がりにしか見えないような弱々しい言を吐くと、エンジャミは視線を下に移す。

 視線に飛び込んでくるのは屈強な男であるジョーの──両足であるが、その節々には青痣が痛々しく浮かび、所々赤黒く変色し「今すぐプレーするのを辞めろ」と訴えるかのように少量の血を垂らしている。

 彼も──ジョーもまたアンドロイドやつらのラフプレーのを示唆している、その傷傷を見てエンジャミは自然と奥歯に強い力が入った。



「これは……バスケット、なんかじゃないよ……」



 亜蓮と同様、目の前の友人たちが痛めつけられていく様子に助けを求めるように──雷人の元へと駆けつけたテレサによって会場に戻された雷人はそう一言、嘆くように呟いた。

 「わ、私……亜蓮さんも呼んできます……っ!」と言い、その場から逃げる様に駆け出して行った彼女テレサの気持ちが分かる様な──そんな共感シンパシーに雷人は"きゅっ"と胸を締め付けられる様な感覚を覚える。



「だけどな……これが、これこそが──この街の大会ザ・ストリート・オブ・アルファルファの醍醐味、なんだよ────」



 隣に並ぶジェラミーの強い気持ちが籠った声が聞こえてくる。

 まさか、貴方も『これがバスケットだ』と言いたいのか──そう言ってやろうと憤り、ゆっくりと視線を横に移した雷人は──後悔した。

 この光景ラフプレーこそがこの街の大会ザ・ストリート・オブ・アルファルファの醍醐味と語ったその口は──真一文字に拳を当てたのかと疑ってしまうぐらいひん曲がり、その目には、強い、強い、強い……怒りの色を浮かべていた。

 そういえば──雷人はそんなジェラミーを見てカフェ・レオナイルに居た頃を思い返す。


────馬鹿か違えよジェリー。そいつは今日の試合の招待チケットだ。前々からテレサむすめさんに頼まれててな……俺たちの決勝試合がある日はチケット用意してくれってな。



(あれだけ仲の良さそうな会話しといて……そんな仲の良い仲間が、友達が……目の前であれだけ痛めつけられて────良い訳ない。良い訳ないじゃないか……!)



 雷人は"すっと"とジェラミーから目を逸らす。自分の恥ずかしい思い違いでそんなジェラミーの事を疑ってしまったのが恥ずかしかったからだ。

 そもそも自分は未だ部外者の域から出ないというのに──目先の物事だけでその人を判断してしまった事が何より、自分が人でなしであるか──雷人の心中にそれはもう天から降り注ぐ雷の如く突き刺さった。



「よぉライト──わりぃ、待たせたな。今はどんな────!!」



 聞き覚えのある声が、後はもう閉口するしか無く静かにその場に立ちすくんでいた雷人の後方からする。ふと振り返ると、雷人の前にテレサと亜蓮と──見知らぬ人外の2人が立っていた。


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