【FGA:22】悔しさ
「お兄ちゃん…………? 何なの、さっきのは…………?」
少女── "ヴェロ・D・ディーマディ"と名乗った(つい今さっきまで自己紹介を省いたせいで名前すら知らなかったのを亜蓮ともども失念していた)少女はその兄である"ディーノ・D・ディーマディ"を硬くて冷たい地面に正座させると先ほどの──緊迫した状況には似合わないなんとも間の抜けた──
無論、そんな半ば寝ぼけ眼な顔で恐らくしっかりとした意識もなかった時の発言に意味などなく──ディーノは全く持ってその兄としての威厳が見受けられないほど肩をすぼめてひたすらに「い、いや……俺悪くねーし……てかそんなコト聞かれても知らねーし……」と言い訳をしていたのだった。
とはいえ兄妹共々、無理矢理眠らされていたワケで──もう10分ほど続くまるで禅問答のようなヴェロの問いに
「それにしても────あの
唐突にディーノは"ふつふつ"と心中に湧き出る怒りを言葉に表すと
「危ないっ!」と叫んで刹那の一瞬でその兄を支えた妹の足にも、アドレナリンが出ていた為なのか──先ほどには無かった産まれたての小鹿の様な症状が同じように窺えると──亜蓮は静かに眼を閉じ一つ、深い呼吸をするとディーノにこう言った。
「おい……悪い事は言わねぇ、試合に出るのは辞めろ」
「は……!? なんでテメェが────!!」
亜蓮のその言葉に憤りを表したディーノであったが──亜蓮に掴みかかってやろうと"ぐっ"と前に出ると──がくりと足から崩れ落ちる。
亜蓮は地面に膝をつき、心なしか涙を浮かべるその少年に全く表情を変えず話を続けた。
「
そんな亜蓮の言に反論しようと顔を上げるディーノであったが──なまじその言い分に分かっている事があったのか──そのまま何かを言うのを"ぐっ"と堪えるとそのまま項垂れた。
妹も同じように悔しさを顔に表したが──何よりも「それは自分が1番分かっている事だ」という様に"ぎゅっ"と唇を噛み締めた。
「悔しいよな……でも今は
突如、後方の茂みから「なんか茂みに変な通り道が空いてると思ったら────こんな所にいたっ!」と聞き覚えのある大きな声が聞こえてきた。
「うおっ! ……おい! ビビらせんなよ!」と亜蓮は驚いた刹那顔を赤らめ恥ずかしさを消すようにそう強がると──大きな声の主、"テレサ・レオ・ナイル"にそう言った──が、そのテレサはそんな亜蓮の言すら耳に入っていないのか、荒げた呼吸を整える暇も作らず慌てた様に身振り手振りで"わたわた"すると──やっと一つ、言葉を漏らした。
「はぁはぁ……亜蓮さん、大変……大変な事になってますよ……っ!」
「は?」と全くもって今の状況と、草をかき分けてきた少女の正体が分からずただひたすらに唖然としているディーマディ兄弟の様に亜蓮は眉を上げるとテレサに聞き返す。
テレサはまたもや息を整えず、矢継ぎ早にてんてこ舞いに言葉を繰り出す。
「プリドさんたちの決勝の相手……デストロイの
それだけ言うとテレサは依然ぼけっとするしかないディーマディ兄妹と亜蓮を連れて再び人々の喧騒の中に紅茶に落とされるシロップの如く溶け込んでいった。
『ザ・ストリート・オブ・アルファルファ』は──人類が住まうここ、レオリオラ王国の王都から少し離れた位置にある大きな貧困街である"アルファルファ"の街(曰く、この街では食物の"アルファルファ"が良く採れるから──と、いった由来らしい)で行われる
貧民街かつ、多種族の層からの参加者が多いため──その内実は、文字通り
「おぉーっと! これはどうしたんだーっ! あの優勝候補の『STRAYDOGS』のヤロウどもが膝をついてるぞーっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます