【FGA:21】その麻袋は


「レオリオラぁ!? レオリオラって言えばそろそろ無くなるって噂の国じゃない!! 人間の国レオリオラの人でそのじょうたい……アンタさては転移者ね?」



 草を毟る手を止めず"爬虫類人レプテリィアン"と名乗った少女は額に大きな汗を浮かべながらそう言った。

 それに応えるように亜蓮も「そーらしいぞ?」と気の入っていない二つ返事をすると後は何も言わず少女の横に並び草を毟り始めた。

 少女は一瞬目を見開いたが──すぐに視線を足元に移し、目の前の作業に戻った。

 同じように亜蓮も視線を動かさず「で、何があったんだよ?」と訊ねる。



「やられたのよ……デストロイの連中に。居たでしょ? 人相の悪いやつらアンドロイド。そいつらにお兄ちゃんと一緒に眠らされて縛られて、こんな汚い麻袋に入れられ──後は見たまんまよ。こうやってアンタに見つけられるまで放置されてたって事」



 亜蓮は「デストロイ? アンドロイド?」と今少女に言われた言葉を頭の記憶領域データベースに検索をかけた。


──ロボットに見えるのは、アンドロイドの人たちですよ。


 ふと、ついさっきテレサに説明されていた時を思い出す──と、同時にたちだと合点がいく。

 確かに言われてみれば人相が悪かった──人を見た目で判断するのはいけないが、亜蓮はその当時事が"すっ"と思い浮かんでくる。



「あっ……そう言えば居たわ、変なロボットみたいなヤツらアンドロイド。でもなんでだ? なんでオマエら兄妹を縛ってこんなところに転がしてたんだ……?」



 少女は相変わらず手の動きと視線を変えず、またなんら動じずその疑問に答える。



なのよ。あいつらアンドロイドは……合理的だと判断したらが汚かろうが清かろうがお構いなしに実行に移してくるのよ」



 「合理的? 何に対してだ?」と、こちらも変わらず疑問を続け様に投げつける。

 まだ数分ぐらいしか話していないはずだが──ずいぶんと辺りが焼け野原の如く黒い外皮を見せつけてくる。しかし──少女の言うは見つからずじまいなのは、もしかしたらはここに居ないか、はたまた隣に転がる妹に気づかずもうすでに脱出しては見つからないひとを探しているかもしれないという疑念がふつふつと湧いてきてしまう。



「アンタ、この街ココ3x3スリーバイスリーの大会が行われているのはもちろん知ってるわよね? ──アイツらは。大会賞金──つまり、金を」



 それだけ聞けば──亜蓮は「さも当然の話だ」と思った。

 別に亜蓮は大金が欲しいからNBA(※NBA選手の年俸は高い。詳しくは『【TO:1】用語解説 〜NBAについて〜』を参照)を目指したワケではないが──同じ大学カレッジでプレーするチームメイトにはもちろん、での問題を抱える者も多く、特段その理由それが珍しいものでは無かった。むしろの方が『素晴らしい気概の持ち主だ』と称賛されているほどである。


故に。


 亜蓮にはこれといった動転する気配もなく──ただ目の前の作業に集中しながら少女の話を聞けていた。


ただ。

ただ一つ、気に食わないのは──



「金が欲しいから──別にソレはおかしな話じゃねぇよ……信念は人それぞれだからな。……ただ、ただな。だからと言って──金が欲しいからと言って、そんな汚ねぇ手使ってこんな相手を縛り付けて捨て置く様なヤツらには──負けられねぇよな……!」



ぐっ。


 自然と亜蓮の拳に力が入る──激昂するかのように逆立つように見える髪と力が入る目に思わず少女もたじろぐ。


彼が気に食わない理由はただ一つ。


 


 「えぇ──そうね」と、そんな亜蓮に絆されるように少女の瞳にも覚悟の炎が浮かぶ。

 "すぅ"と一つ、そんな彼らの背中を押す様に、そんな彼らに汚い手を使うやつら倒せと、勧善懲悪を勧める様な涼しい風が吹く。

 静寂。2人の間に静けさが訪れた。変わらず吹く風に上がる心意気に──今、彼らのボルテージは最高潮に来ていると言っても過言ではない。


 と、そんな時だった。唐突に良く働いていた少女の大きな手が止まる。



「──あっ」



 釣られて亜蓮も少女の手元に視線を移すと──そこには彼女が入っていた麻袋より少し大きめか、そんなサイズの渋い茶色の麻袋が転がっていた。

 全く持ってが見つからなかったのは──少女が必死にその口を解こうとあちらこちら揉んでいるのに微動だにしないによるものだと亜蓮はすぐに察した。

 がさごそ──無言で一生懸命に、頬に嫌な汗を垂らす少女が麻袋の口を解こうとする音だけが辺りに響く。

 別に静かなのは嫌いではないが──その時ばかりは、その静寂にどうしようもない焦りと怒りが亜蓮の心中に水に浮かぶ油の様に浮かんでいた。


ほだっ……。


 中々解けないその麻袋を縛るには心許ない細い紐に苦戦するところが──いかに彼女が焦っているかが伺える。

 いや、もしかしたらを察知していて──彼女の本能自体がとする手を止めていたのかもしれない。

 どちらにせよ──今、目の前のいやらしい紐が解けてしまったおかげで、彼女はその現実を嫌でも見る羽目になるのだが────。


ごたっ。


 小汚い麻袋から出てきたのは──彼女の容貌と変わらない爬虫類の様な硬い鱗と、両手に生えているひっかいたりしたら出血は免れないであろう鋭い爪。そして────麻袋から出されてというのに未だ開かないその瞼だけだった。 



「お兄ちゃん……? ねぇ──お兄ちゃん、起きてよ……」



 さっきの態度とは打って変わって今度はなんとも弱々しい少女の声が──小さいながら周囲にこだまする。

 嫌な静けさの後に、少女のその声がまた響くのが──なんとも亜蓮の心臓を締め付ける様に絡みついてくる。

 この状況ばかりは──あの亜蓮ですら一言も発せられない。否、浮かんでこない。


 必死に動かぬ兄に呼びかける妹が──その小さな背中が何とも痛ましく瞳に写る。



「────りん、──…………」



────声が。声が、聞こえる。聞こえた。


 途端に少女の背中が跳ねる。生きている──それだけでどれほど彼女は救われた事か──「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 起きてよ、お兄ちゃん!」今度は大きな声で、まるで闇に慟哭する野良犬様に叫ぶ。



「──りんに、えいよ────…………」



 先ほどからつぶやく様に聞こえる声に今度は少女も亜蓮も耳を澄ます。「何……? なんて言ってるのお兄ちゃん?」と声をかける少女に────その兄は三度、聞こえるか聞こえないかの様な小さな声でハッキリと、こう言った。



「プリンに栄養……たっ…………」


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