【FGA:12】2人組と4人組


 数分前──亜蓮と雷人がレオン王子に勝負1on1を挑む前──"カフェ・レオナイル"の新人店員にしてカフェの女店主"カミラ・レオ・ナイル"の娘である"テレサ・レオ・ナイル"はそれはもう──普段は朝早く日の出と共に起き"ぐぐっ"と一つ背伸びをし、食材の仕入れに行くときは鼻歌混じりの笑顔でスキップを欠かさない呑気な性格で──しまいには"水溜り少女Paddle Girl"なんてあだ名さえ付けられる、そんな少女が──スキップを忘れるほど困り果てていた。

 原因は言わずもがな──派手で色とりどりの前衛的アバンギャルドな服装に髪色も紅、青、白、茶と目に悪いような、おまけに端正な容姿と格好に似合わない羽型の銀色のネックレスをお揃いにした──そんな十人十色を地でいくような4人組の男女が入店してきた事に対してではない。

 あるいは──身長が2Mメートルはあろうか──大きな背丈に長い前髪、気弱そうな顔に似合わない屈強な体躯の青年と──かたや人語を喋るやたら口の悪い"青い炎"が時を同じくして入店してきた事に対してではない。

 はたまた──何の縁か4()がほぼ相席状態で話に花を咲かせそして──テレサに無茶振りを振ってきた事に対してでは──いや、は困っていたが──。


ともかく。


 少女テレサは困っていた。原因は────彼女の父"ジェラミー・レオ・ナイル"がから店の奥に籠って出てこないからだ。

 時間としては数分前──の数分前、ちょうど突飛な4人組が入店してきた頃──それまでは普通に接客していたのに軽く騒ぎながら入店してきたを見た途端「悪い。ちょっとせっきゃくは任すわ」と言って店の奥に籠ってしまったのだ。

 テレサは「きっと顔見知りなんだけど苦手な人たちなんだろうな。私もちょっと苦手だし……」と(勝手に決めつけ)放置していたのだが──件の、だと名高いレオンおうじが店の前でレオリオラ王国の代表選手を募るものだから──()がそれに乗っかるものだから──いよいよ収集つかない場面になってしまったものだから、助け舟ちちを呼ぼうと店の奥に行ったところなのだが──



「ちょ、ちょっとお父さん助けてよ! もうお店の中も外もめちゃくちゃだよ! カミラおかあさんはなんか『ちょっとちょっと! なんか目を離した隙に面白そうな事になってるじゃないの! こりゃ見物に行かなきゃ損だね!』とか言って変な2人組と王子の勝負1on1見に行っちゃったし!」


「カワイイカワイイ玉のような我が娘の頼みだが……断る! 俺はあの冷やかしにきた4人組イヤミなヤツらが帰ったら店に戻……変な2人組?」



 そういえばジェラミーおとうさんが引きこもったのは4人組が入店してきた後だっけ?──テレサは頭の中で今までの時系列を整理しながら指を折りながら順を追って父親に二人組アレンとライトの事を説明した。

 ジェラミーは娘の話をまとめる事の拙さが目立つ話に耳を傾けながら──時々唸りのようなくぐもった声で相槌を打っていた──が、テレサの話が終わると急に部屋の重たそうな木製の扉こじ開け(ちなみにこの部屋はカミラ曰く貯蔵室らしい)中から"ぽん"と出てくると「……様子見るだけ、だぞ?」と言いあろう事か呼びに来たテレサを尻目にさっさとみせさきに行ってしまった。

 テレサはそんな4人組に負けず劣らず突飛な行動をする父親に「もぉーお父さんもお母さんもしっかりしてよぉ!」と嘆くと「ちょっと待ってよお父さん! 私を置いてかないでよお父さーん!」と叫ぶと生まれたてのアヒルの子供のように父の背中を追いかけて行った。


────そしてそんな父親が"引きこもり脱却宣言"をした時を同じくして2、"藍葉 亜蓮"と"神戸 雷人"はと言うと──。



「あれが──"人魂交替スイッチ"か」


「話の流れ的に『仕方ない』って言ってたけど〜〜まさかを取るなんて〜〜、神様って意外と大胆なんだね〜〜」


「まーあの人はなー。ちょいなとこあるからな〜〜」


肉体性能ボディスペック変わってるけど……いいのか……?」



 数は数百を下らないだろうか──多くの人々の中に派手な格好に身を包んだ奇怪な4人組がいた。

 1人は紅色の綺麗なさらりとした髪を持つ眉目秀麗な青年。

 1人は茶色の煌びやかな髪の毛先を外側にハネさせた容姿端麗な少女。

 1人は青色の艶やかな髪を真ん中で分けた顔貌の良い少年。

 1人は白色の腰まで届く綺麗な髪を持つ容貌端正な少女。

 まるで十人十色をで行くような──いや、まさに""と言った方が正確か──そんな4人組であったが不思議な事に彼らの姿形とはかけ離れた、いや似合わないと言うのか──可愛く4人ともお揃いの銀に輝く羽型のネックレスを付けている。


普通は。


 そんな薄い色が目立つ民衆の中にそれほどカラフルな──派手な姿をしたが人の目を惹かない訳がないはず──だが。

 不思議なことに周りの民衆は彼らを見向きもせず──否、の様に彼らの周りを通り過ぎては目の前で行われている王子と変な2人(?)組アレンとライト勝負1on1が早く始まらないかとヤジを飛ばすばかりで────


それはさておき。

亜蓮たちがどうなったかと言うと──



「はっはっは! すまんが待たせたな!」



 そう言って移動式ワゴンの後ろから現れたのは"亜蓮と雷人"とこの後勝負1on1をすると言う話の当事者──レオン王子、"レオン・レンドール・レオリオラ"第一王子であった。

 今まさに"人魂交替スイッチ"と言う魔法で雷人アレンに「ん? 何かイメチェンでもしたか?」と(バカみたいに)軽く不思議がるとワゴンから持ってきたのか──バスケットボール大のボールを軽く触るとちょうど自分と雷人アレンの間の宙に放り投げた。

 またバスケットボールを投げつけらるのか(※『【FGA:7】異世界へ』参照)と思い"さっ"と身を強張らせた雷人アレンに「なんだ? 今更僕に怖気ついたのか?」とドヤ顔をかます王子に「あ"?」と、思わず手が出そうになるが──空に放られたそのボールがまさかの空中で静止すると途端に2本の棒、否、事に怒りの感情が吸われる。

 「は? は!? なんだこりゃ!?」と全く隠さず驚嘆の声を挙げる雷人アレンに王子は「なんだお前、この世界の人間なのに"レフェリーボール"の事を知らないのか? まるで転移者の様なリアクションだな」と「ふっ」と鼻で笑うと声高らかに「素晴らしい"レフェリーボール"だろう? 赤と青レオリオラカラー塗装ペイントされたレオリオラ王国専用のレフェリーボールだ!」とと雷人アレンに再びドヤ顔をこれでもかと思いっきりかますと共にそう言い放った。

 すかさず亜蓮の代わりに雷人が「いや僕ら転移者──」と言うツッコむ前に王子の横から"ひょこり"と王子より少し小さな頭と、それ以上に一回り小さい頭が出てきた。



「すみません。レオンは頭は良いのですが少し小さいところに気が回らなくて……失礼ですが貴方たちは"転移者"ですよね?」



 そう言いながらレオンと雷人アレンの間に割って入ってきたのは──青と赤を基調とした美しい豪華絢爛なドレスに身を纏った少女──レオリオラ王国の第一王女"レイア・レンドール・レオリオラ"だった。


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