【FGA:10】試練


 鳴り止まぬ歓声に雷人が気圧され始めた頃──レオン王子は"ぴしゃり"と右手を挙げると聴衆を即座に黙ら──「おおい! 静かにしないか! 僕が喋れないだろ!」と聞き分けのない人々に軽く半泣き状態で訴えかけ、しばらく時間を費やし黙らした。

 意気揚々とレオリオラ王国の代表選手ロスターになると宣言した手前もう後には引けない亜蓮たちだが、雷人はと言うと──静かに胸中にある思いを張り巡らせていた。


(見たところ、この国にという事は無さそうだけど──なんで代表選手ロスターが集まらないんだろう……? このレオリオラ家ひとたちに人望が無いという事も──こんな大々的な宣伝をしてすぐに人が集まるあたりそういった事もなさそうだし……優勝すれば"なんでも一つ願い事が叶う"なんて──僕らは"元の世界に帰る"ためだけに必死になって物を考えていたけど……普通だったらそんな──喉から手が出るほど欲しいものなんじゃないのかな……?)


つまり。


 この国の人間には──レオリオラ王国の民草は──があるのだ。あるいはそのは"パンドラの箱"や"玉手箱"だった、なんてオチも──


(いや、カフェにいた4人組の人たちが言ってた──この"聖杯トーナメント"に出場エントリーして大会に出ること自体は何も危険リスクが無いって──女神が憂いてそうしたって──じゃあ……理由は──なんでなんだろう……)



 すると突然、雷人の耳に亜蓮の「どぇえっ!?」というけたたましい声が飛び込んできた。思わず防御反応として耳を塞いだ雷人だが──すぐに亜蓮の方を向くと「な、何があったの!?」と聞いた。

 亜蓮は(魂ながらも)額に汗を浮かべながら雷人の目を見つめると「ごくり」と一つ、生唾を飲み何も言わず再びレオン王子に相対した。雷人も釣られて王子の方を向くと彼は目を瞑り両手を組むと静かに──そして重々しい声でこう呟いた。



「よくぞ我々レオリオラ家に手を貸してくれると言ってくれた……勇気ある英雄達よ──だがしかし……王国兵士レオリオラ・ロスターになるためにはある試練をクリアしてもらう必要がある……!」



なるほど。


 突として雷人の脳中に先ほどの疑問の答えが──という問いの答えが降ってきた。


つまり──つまりは、だ。


(……つまり誰も王子のいう、という事だった──



「このレオリオラ王国の第一王子であり、そして──現"レオリオラ・マンカインズ"正PGポイントガードである僕──この"レオン・レンドール・レオリオラ"と勝負1on1をしてもらう──っ!」



──のか、な……?)



「は?」



静寂。


 つい今さっき女神ネイスにこの異世界へと転移してもらうと言われた時並みの──久しぶりの静寂がレオン王子を中心とした周囲に訪れた。この瞬間まで騒ぎに騒いでた民衆たちさえ──何故か押し黙り頬に汗をかく者、失笑する者、慌てた様子を見せる者など──三者三様の反応リアクションを取るほどの──。

 女神との間に流れた静かな時間(およそ10秒間)の記録を軽々しく越えた頃──亜蓮はゆっくりと雷人の方へ向き直ると王子同様静かな声で耳打ちをしてきた。



「な、なぁ……オレさ、正直、試練だのなんだか言われた時さ……何か難しい問題クイズかなんか出るのかと思って──ほら、オレバカだろ? だから一瞬焦ったんだけどよ……それがバスケ1on1って……ライト。オマエ、正直、どう思う?」



正直。


 雷人は今まさしく──亜蓮と同じ思いを心中で共有している──そんな事は有り得ない妄想だと科学者に一蹴されてしまいそうな──という錯覚に陥った。

 原因は明確。今の亜蓮に──日本一のバスケ選手NBAドラフト一位指名に目の前の──華奢な身体と弱々しい腰つきが目立つ端正な顔立ちの少年が勝てる相手では無いと──確信していたからだ。


事実。


 周りを取り囲む民衆──おそらくバスケは齧っているだろうがには取り組んで無さそうな──そんな雰囲気を感じ取れる人に負けてしまいそうな──相対してまだ短い時間で、、そんな印象がある少年に亜蓮が負けるイメージなど到底湧いてこない、湧いてくるはずがない。


だがしかし。


 さすがは"神戸 雷人"か──"藍葉 亜蓮"に"終生のライバル"と称されるだけはある──今、目の前に立つドヤ顔が美しい少年の自信に違和感を覚える。


もしかしたら。


 こう見えて彼は身体能力フィジカルには頼らないプレースタイルなのか、はたまたスキルフルな選手プレイヤーなのか。

 見た目だけで判断してはならないと言うが──自身の直感だけを信じるのであれば──雷人はレオンに対してわざわざその勝負を飲むほどの事ではないと感じているのだが──。



「亜蓮くん……ここは念を入れて本気で行こう……! やっぱり直感や見た目だけで"こうだ"と判断を下すのは危険だから」



 雷人はそう亜蓮に耳打ちをすると亜蓮も「おう分かった」と特段雷人の判断を疑わず二つ返事で頷くと二歩三歩とレオンの前へ迫り出すと改めて──王子との勝負1on1の申し出を高らかな声で受諾すると宣言した。

 待ってましたとばかりにその宣言に対しレオンは「承知した!」と言うと「では準備ウォーミングアップをしたまえ! 勝負1on1は5分後に行う!」と一方的に亜蓮たちに提言すると自身はそそくさと移動式ワゴンの後ろへ帰っていった。



「じゃあ亜蓮くん……僕たちも準備しよう……! 勝負1on1は……もちろん、亜蓮くんがやるんだよね?」


「あぁ……任せとけ。変なクイズとかじゃなくてバスケなら──"バスケ"ならオレは負けねェ」



 雷人は勇ましく猛る亜蓮の横顔を見ると──先ほどの自分の憂いなど所詮でしか無かったと確信するのと同時に──三度、女神ネイスと交わした会話を思い返していた。


(1人しか転移できない──正確には1しか転移できないと言われた時は……正直困ったけど──あの時の亜蓮くん……カッコ良かったな)


 雷人は「さてと」と一呼吸おくと亜蓮の方へ向き直り──女神ネイスがとして与えてくれた──いわば魔法の様な、あるいは奇想天外な手品マジックの様な──否、それらのどれにも形容し難い""を使おうと亜蓮に近づきそして──2人合わせて声を揃えると静かに、だがそれでいて重々しく──言い放った。



「「人魂交替スイッチ!!」」


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