【FGA:9】レオン王子


「えっ……"聖杯トーナメント"への出場資格ですか?」



 異世界へ飛ばされて亜蓮と雷人たちがとりあえずに入った店──"カフェ・レオナイル"の新人店員であり、店主の一人娘だと言う少女、"テレサ・レオ・ナイル"への詰問(と言う名の尋問)は驚くほどスムーズに行われた。

 彼女を"聖杯トーナメント"の出場資格の説明役に適している──そう言った綺麗な紅髪の青年は紅茶のお代わりを頼んだのか──再びひたひたに注がれた黄金色の良い香りがする液体を美味しそうに啜ると「彼らに説明してもらえるかな?」と笑顔を見せテレサに訴えかけた。

 さしもの素早い逃げ足を誇る少女うさぎもその綺麗な顔立ちから繰り出させれた屈託のない笑顔には勝てなかったのか──頬を赤らめながら辿々しく説明を始めた。



「せ、説明と言っても……そもそも"聖杯トーナメント"に出場エントリーするには"個人"じゃ無理で……ネイス様に"国"だと認められた"ある程度の規模を持つ集団"にたいして15を選別して登録する必要があるんですよ」



「うむ! それで試合ゲーム中にベンチに入れるのは13、しかも"聖杯トーナメント"へ出場するためには代表選手を10、登録しなければならないのだ!」



──なるほど。


 雷人は話を聞きながら軽い相槌を打つ。どうやら──この世界のバスケットボールのルールは"NBA"を基準として成り立っているらしい。


そもそも。


 "国際バスケットボール連盟FIBA"と"NBA"でルールが違う事を知っているだろうか。

 普段テレビなどでなんとなく見ている代表同士の闘いであるが──よくよく注意深く見てみるとNBAと細かいところでルールが違うことが分かると思う。詳しい差異については後々説明を挟むと思うが今ここでは登録選手ロスターについての違いだけ説明させて頂こう。


まず登録選手ロスターの数であるが。


 NBAの登録選手ロスターは15人まで決められうち"13人"が"アクティブロスター"、つまりとなり、最低8名ユニフォームの着用が求められるのに対し残りの2人は"インアクティブロスター"と呼ばれ、選手となる。主にインアクティブロスターを構成する要因としては故障した者などである(【注意】異世界ここでは登録選手ロスターは最低10人居なければならないとされるがNBAでは原則15人を登録しなければならない)。


 対して"国際バスケットボール連盟FIBA"は登録選手ロスターは12人以内とされている。



「つまり! まず君たちは"国の一員"にならなければならないのだ! ──まぁこの世界では国を構成する要素はもっぱら"種族"に依るから君たちは"人間の国"つまりレオリオラ王国ここ登録選手ロスターとなれるよう努力する事だな!」



 "びしり"と雷人を指さし青年は何故か見事なドヤ顔を見せる。

 指された当人ライトはそれらの情報を飲み込み整理にするのに夢中で全くもって、青年のギネス級のドヤ顔には目もくれなかったが──亜蓮は「じゃあどうやったらその代表選手になれるんだ?」と至極真っ当で──たった今情報整理が終わった雷人に新たに降りかかった問題点でもあった質問を青年に投げかけた。

 青年は紅い髪をまた"ふわり"と翻らせると「それはそこの少女がよく知ってるのではないか?」と微笑する。

 頭上に「?」を浮かべながら亜蓮はその少女に目線を移すとテレサは「あはは」と頬に汗を浮かべながら苦笑いすると「それは私のおとうさ──



「皆の衆‼︎ よくよくよぉ〜〜く、耳を傾けて僕の話を聞けぇ‼︎ 今からレオリオラ王国に純然たる忠誠を誓い、そして……‼︎ 我々レオリオラ家と共に目の前に立ちはだかる強敵たちと熾烈な闘いを繰り広げ──最後に勝利かって栄光を勝ち取るための最強最高最適の王国兵士レオリオラ・ロスターを募集するっ‼︎」



 突如、店の外から若い少年の声と──いつの間にか人が集まったのか、大勢の老若男女の声が店内へと"どっ"と響いてくる。

 亜蓮と雷人は「なんだなんだ」とその騒ぎの正体を見極めようとカフェの突上戸つきあげどを上げると外を──ちょうど店の下で行われている人々の集会を嘱目した。

 先ほど通りを歩いていた人のほとんどが集まっていているのか──およそ2、300人の人だかりの中心にやたらと目立つ綺麗な赤と淡い青を基調とした豪華絢爛なドレスを見に纏った幼い少女と若い少女が2人、そしてその間に拡声器メガホンを持ちわざわざ用意したのか──仮設の車輪キャスターがついた背高2Mメートル程度の移動式ワゴンに登り一際大きい声で聴衆に語りかける──少年が居た。

 どうやら騒ぎの原因もとい元凶はその目立つ少年という事を認知した亜蓮は「なんだあいつ」と純粋な疑問を持つと同じく突上戸から身を乗り出し、様子を伺っていたテレサが「またやってる」と"ぼそり"と呟くのを見逃さず、すかさず彼女にその少年が何者か──と身元を訊ねた。



「あ、い、いや全然変な人たちじゃないですよ! 変な人たちどころか……彼が──拡声器メガホンを持って叫んでるのがレオリオラ王国の第一王子のレオン王子で──その下に居るのが第一王女のレイア姫と第二王女のレア姫なんですよ。今レオリオラ王国はめつぼ──ごほっ! 試合に出れる人が居なくてよくこうして街に出ては人を募ってるんですよ……!」



 テレサはそれだけ言うと「わ、私、店主おかあさんとお父さん呼んできますね!」と亜蓮の「ん? 今滅亡って──」という言を遮りそそくさと、先ほどの転々とした足取りではなく──右脚と右手が同時に出ている──まるで大きな祭典でスピーチをしなければならない子供のような足取りで厨房へと戻っていった。

 そんな彼女を訝しげな眼差しで見送っていると──代わりに今度は4人組の客のうちの茶髪の少女が、その麗しい綺麗な髪を無造作に振りながら突上戸から顔だけ出し下を見遣ると「お〜〜、まーた性懲しょーこりもなくやっとるなぁ〜〜」といやに"にこやか"な顔で笑うと亜蓮と雷人に「ほいだら、下に行ってきなはれや。代表選手プレイヤーにどうしても、どうして〜もなりたいんやろ?」と言うと雷人の背中を押し半ば無理やり外に出すと大きな声で「お〜〜い王子サマ〜〜! ここに代表入りしたい言うとる英雄がおるみたいやで〜〜!」とまた大きな声で叫んだ。

 遅れて紅髪の青年と青髪の青年、白髪の少女までもが下に降りくると全員揃いも揃って「ガンバレ!」と口パクで亜蓮たちに伝えると"ささっ"と亜蓮たちを「なんだなんだ挑戦者か?」と騒ぎながら好奇の眼差しで見てくる民衆に光の速さで混ざっていった。



「──ったく! なんなんだよアイツら……勝手にオレら担いだかと思ったらさっさと傍観側にマワりやがって──それにしても」



 亜蓮はぐるりと辺りを見回すと「貴公らが我らレオリオラに手を貸す英雄か?」と"にやり"と笑う王子に一瞥をくれると雷人の方へ向き直った。



「さっきのテレサてんいんが言ってた王国が滅亡だとかなんとかって──つまるところ試合ゲームに出てくれる選手プレイヤーが居ないから、って事だよな?」


「うん。どうやら周りのお店に閑古鳥が鳴いているのも──この国が滅亡するからって理由ワケっぽいけど……」



 「だったら」と亜蓮は含みある間を置くと改めてレオン王子の方へ身体を向けると"びしり"と一指し──まるで地平線まで届きそうな大きな声でこう、宣言した。



「だったらオレらが代表選手になってやるぜ‼︎」


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