2021年 5月21日 再びかかりつけ医に。そして、その日のうちにPCR検査を受ける
昨夜は息苦しく、四十度以上の高熱が出て、ほとんど眠れなかった。
5月17日に病院からもらった解熱剤や抗生物質は昨日の段階でなくなってしまっていた。
早朝、のそりと自室のベッドから起き上がり、コロンを腕につけてみる。
柑橘類をベースにした私の好きな爽やかな香りが鼻をくすぐるはずなのだが、今は、全く何の匂いもしない。
医師からは、もし四日分の薬を服用し終わっても熱が続くようなら、病院にその旨を連絡するように言われていた。
診療開始時刻の9時になるのと同時に病院に電話して、受付に経緯と今の症状を話す。
要旨は三点。薬が尽きたこと。四十度を超す高熱が出ていること。臭気を全く感じられないことなど。
お待ちください、と言われ五分近く保留メロディーのパッヘルベルのカノンを聞く羽目になる。
だが、待った甲斐があり、先週の土曜日に私を見てくれた医師本人が電話口に出た。
「そういう症状なら自治体が設置したPCR検査所で検査を受けた方がいいと思うんだよね。予約の手続きをして、センターの地図と注意事項を書いた紙を渡すから、10時過ぎに来てもらえるかな? あ、もちろん病院に来るのは、あなた本人ではなくてご家族とかでも全然構わないのだけれど」
むしろ、私より家族に来てほしそうな雰囲気だったが(コロナの疑いが濃厚な患者より、少しでも安全なその家族に来て欲しいのは当然だといえる)私が行きます、と押し通した。
病院はビルの五階にある。
指示された通り患者用のエレベーターではなく、人荷用のエレベーターを使って五階に上がる。
受付で診察券を出して福井ですと名乗ると、ビニールカーテンとアコーディオンカーテンで二重に区切られたスペースに案内された。
申し訳程度に横たわれる診察台があり、空気清浄機がひんやりする風を吐き出している。
ビニールカーテンの隙間から体温計を渡されたので熱を測ると39.1度あった。
30分ほど待つと医師がやってきてビニールカーテン越しに問診があった。
同居家族はいるか、職場はどういうところか、などという質問もされる。
だが、前回の診察の時のように首のリンパ節を確認したり、喉の赤みを確認したりなどの直截的な診察はない。
「検査所でPCR検査を受けるにあたって同意事項があるから、これを読んで、同意欄にサインしてくれるかな」
私はすべてを理解したうえでPCR検査を受けることに同意する、という旨が書かれたところに自署をした。
(ちなみに接触確認アプリCOCOAを利用しているかしていないかの確認欄と、メールアドレス、職業欄、勤務先等の記入欄などもあった)
「じゃあ、予約をとるからね」
と言って医師はアコーディオンカーテンを閉めた。
そこからまた20分ほど経つと、医師が戻ってきた。
「これが予約票ね。検査時間は今日の13時半だから」
予約票には、患者氏名と予約日時に加え、検査番号、というものが書かれ、検査所の住所と簡易地図が載っていた。
注意事項としては、完全予約制のため、時間厳守。マスクを着用すること。なるべく、公共交通機関は使用しないこと。
検査方法は鼻腔内の粘膜を採取する方式であること。
トイレはない。検査が終わったら速やかに帰宅すること。
などが書かれていた。
そして、結果は検体採取後2~3日後に検査を依頼した医師から連絡があるので、それまでは新型コロナウイルス感染症の疑いがあることに留意して他の人に感染させない意識をもって行動して欲しいと書いてあった。
結果が陽性の場合は、自治体の保健所からも調査のための電話連絡があるとのことだった。
「ところで熱が39度を超えていているみたいだから、今度はもっと強めの薬を五日分、出しておくね。汗をかくと思うから、着替えはこまめに」
と言って、医師は去っていった。
会計も受付ではなく隔離スペースにて、ビニールカーテン越しに行い、薬はスタッフの人が直接下の薬局に取りに行ってくれた。
そして、また人荷用のエレベーターを使って一階に降り、なるべく人のいない道を通って帰宅した。
早めの昼食にはにんにくと玉ねぎをたっぷりつかったタラコスパゲティを作ったが、やはり臭いが全くしない。
そして、食べられるかな? と思う量の半分ぐらいしか食べられず、残すことになる。
医師からもらった薬を飲み、20分ぐらいすると、汗が体中から噴き出してきた。
土曜日に発熱してから、ずっと熱が体内にこもったような感じで汗をかかなかったので、新鮮な感覚である。
あまりにも汗をかいたので一旦着替えた。
メールでPCR検査を受けることになった旨は両親に伝えてあって、父が検査所近くまで車で送ってくれることになっていた。
検査所は駅近くにあり、バラックのような仮設の建物だった。思ったより車道が混んでいて5分ほど遅れてしまったが、検査を受けることができた。
バラックに一歩足を踏み入れると、中にいる医療スタッフはすべて、全身を防護服に包んでいた。
アクリル板で区切られた受付で予約票を見せると、生年月日と名前を教えてください、と言われ「生年月日は……で、氏名は福井真世です」と応えると、白っぽい液体が入った試験管を渡された。
「試験管に貼ってあるお名前に間違いがないことをご確認の上、隣の部屋に移動してください」
と指示されたので確認すると、そこに貼られたシールにはきちんと「フクイ マヨ」と片仮名で氏名が書かれていた。
隣の部屋に移動すると、試験管を医療スタッフに渡すように指示された。
そして、部屋の奥に目をやって、ぎょっとした。
なぜかというと透明なアクリル板で出来た小さな個室(電話ボックスぐらい?)に人が入っていて、ぎりぎり腕が通るぐらいの小さな穴からゴム手袋をした手を突き出していたからだ。
もちろん、中に入っている人も医療スタッフの一員であり、防護服を着こんでいる。いやはや辛そうなお仕事である。
「では、床に貼ってあるテープのところに立ってください」
床のテープはちょうど透明な個室の手前に引いてある。つまり、中に入っている人がPCR検査を実施する医療従事者なのだろう。
「ええっと、もう少し前に……はい、大丈夫です。今から綿棒を鼻の奥に入れます。マスクを鼻の部分だけずらしてください。不快感があると思いますが、我慢してくださいね」
と、説明があったあと、綿棒、というには持ち手が長く、綿球もいささか大きい物体が鼻の奥に入ってきた。
んぐっとか声が出そうになったが必死に堪える。ツンとした痛みに涙が出た。
「もう少しですから、頑張ってくださいねー」
早く終わって欲しい、と思いながら我慢していると、1分(もっと短かったのかもしれないが、体感はそれぐらいあった)ほどで解放された。
「こちらをお持ちになって、お帰り下さい」
渡されたのはPCR検査の結果について、という紙だった。(予約票は回収されなかった)
一回も椅子に座ることなく、バラックに入ってから5分ぐらいで帰路につくことになった。
PCR検査の結果について、という紙には検査結果が通知されるまでには約2日間のタイムラグがあるということだった。医師からは陽性の場合は明日連絡することになると思うと聞いていてので齟齬があるが、まあ、陰性だった場合は順次お知らせ、ということなのだろう。
ちなみにだが陽性でも陰性でも検査結果は検査所や自治体からではなく主治医(PCR検査の指示を出した医師)から電話で通知されるとのことである。
体温 朝39.8度 昼37.8度 夜39.2度
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます