王国高等剣士学院
一年生編
第6話 入学
合格が決まり、入学の時が来た。
クラスの発表があったが、そこに俺の名前はなかった。
「君、こっちこっち」
誰かが話しかけてきた。恐らく、教師だろう。
「君は一般クラスじゃないよ」
え? どういうことだ?
「君は親御さんから特別学級にって頼まれてるから」
なんだと!? まあ、わからなくもないけど……
そして俺はその教師に連れられて、その特別学級の教室に入った。
そこには1人の女の子がいた。
「これで全員揃ったね」
俺は空いてる席にとりあえず座る。
「えーっと、王国高等剣士学院にようこそ。2人は特別学級っていうわけだけど、評価とかは一般クラスと変わらないので安心して下さい。じゃあ、ちょっと待ってて」
そう言って教師は教室から出て行ってしまった。
「えっと……は、初めまして……」
ど、どうしよう……テレパシー……2人なら使っていいか……
『は、初めまして』
「えっ……なんですか? これ……」
いきなり使ったから驚かれてしまった。
『俺、能力の効果で喋れない代わりにこうやってやってるんです』
「代わりにって……すごい技ですよね?」
『まあ、代わりっていうか、能力に付いてくるやつなんです』
「喋れないから意思疎通のできる能力も併せ持つ……色々すごいですね」
『そうですね……』
理解してくれてよかった。
「あ、私、
『水風文人です。俺は……』
「水風家……? 一級貴族様の……」
『まあ、そうだけど……』
「あわわわ……失礼しました……ご無礼をどうか……」
『謝らないで……俺、そんなに気にしてないから、身分とか』
「すみません……」
空気が重くなる。ここからどうしたら……
『俺さ、ついこの前まで意識なくてさ、だからそんなに……そのー……身分とか、そういう意識あんまなくて……振る舞いは知ってるけど、あんまりペコペコしてほしくない』
俺は俺の思いをまろんに伝えた。
「そう……ですか……なら、お友達になってもよろしいですか?」
『もちろん』
「よかったです」
ほんとは敬語もなしで行きたいところだけど、厳しそうだな……
「なんとお呼びしたら……」
『文人でいい。俺も、まろんって呼んでいいか?』
「もちろんです! これから、よろしくお願いします」
『よろしく』
とりあえず、友達ができてよかった。今後も2人で一クラスっぽいし。
「文人さんは、生まれた時に色々あって、それでこの学級になったんですよね?」
『まあ、そうだけど、父さんが勝手にこの学級にしたっていうのが正しいかな』
「そうなんですね。お父様、文人さんのことをとても思っていらっしゃるんですね」
『そ、そうかな……』
俺は普通のクラスがよかった。
『まろんはなんでここに?』
「私は、三級貴族で唯一女の子でここに入学したんです。周りに馴染めないことは目に見えていたので。自己防衛です」
『すごい……結構そういうの厳しいんだ』
「文人さんが
『あれ勝手に来ただけで……』
「悔しくないんですか? 言われっぱなしで」
『初対面の人にあまりこの能力を使いたくなくて……』
「そうなんですか……」
『この能力はほとんどの人が知らない能力。下手に知られたら困る』
「じゃあ、私もこのことは秘密にしますね」
『頼む』
まろんとは結構分かり合えそうだった。でも普通のクラスだったら絶対こんなことはなかっただろう。ここは父さんに感謝しないとな……
今日はそんな感じでクラスの自己紹介程度で終わった。
先生に名前を聞いたが「答える必要はない」と返されてしまった。
ずっと付き合っていくわけじゃないけど、名前くらい教えてもらってもいいのに……なんか変な先生だな……
特別学級の教室は学校の正面玄関から一番遠いところにある。だからそこまでまろんと一緒に行くことにした。
この世界の身分制度は通学の仕方にも表れていて、一級貴族は完全に迎えが来ていて、二級貴族はどちらもいる。そして三級貴族以下は電車や徒歩で帰る。
だから、俺とまろんは一緒には帰れない。それができればワンチャンあったかもしれないのに……
なんてことを考えながら俺は家に帰ってきた。
まあ、隣に兄ちゃんいたから考えてたことが聞こえてないといいけど……
「なあ文人」
ギクッ……
「どうだった? 初日」
『まあ、まあまあかな……』
「何組になったの?」
『特別学級』
「えっ……」
『多分、父さんがそうした』
「そう……か……」
『兄ちゃんは?』
「上級2年だから、クラスはないよ。ないというか、一クラスしかない」
『上級2年……?』
「1年の次は上級2年と下級2年に分かれるんだよ」
『へぇ……』
「上級2年は20人だからクラスも一クラス」
『そうなんだ』
「うん」
沈黙。
この学校のシステムくらい先に説明しろよ……あの教師……
「友達できた?」
『うん。さっきいたじゃん』
「そうだったな」
『兄ちゃんは? この前のあいつらとか』
「あいつらは下級2年だから」
『もう、大丈夫?』
「ああ。心配させて悪かったな」
そして家に着いた。何度も言うが、家というより屋敷と呼ぶほうが相応しいだろう。でもみんな家と呼ぶ。間違いではないが。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさいませ。波瑠人様、文人様」
この人はお手伝いさん。ちなみに名前は知らない。母さんの手伝いを主にしてくれている人だ。
そして俺たちはお互い自分の部屋に戻った。
無事に第一目標の『入学する』をクリアしたから次は『この世界を知る』を目標とした。
俺はまだこの世界のことをほとんど知らない。
元居た世界と同じような建造物が多いのは知ってるけど、実際はどうなんだろう。あの世界に身分制度と剣士がある、この世界はそんな世界なのか?
そんなに変わらないようで、結構違う。
俺はパソコンを立ち上げ、この世界、主にこの国のことを調べた。
まずこの世界の規模はあの世界とほぼ変わらないくらいで、発展具合もそれほど変わらない。でも、貴族と平民という身分制度があり、剣士という職業があり、魔法が存在する。そして王政。
見立て通り、という感じだった。
同じような感じなら適応もそれなりにできそうだ。中世ヨーロッパみたいな街並みだったりしたら結構困惑していただろう。他の国はそういうところもあるかもしれないけど。
あとついでに王国高等剣士学院についても調べてみた。
この学校は2年制で1年生のあと、上級2年と下級2年に分かれる。上級2年はたった20人だけで、他の100人は下級2年となる。上級2年はほとんどが首都の剣士団に配属される。つまり、上級2年になれば将来安泰ということだ。逆に下級2年になると剣士団にも配属されず、他の普通の高等学校の人と同じになる可能性だってある。
一級貴族という身分に身を置く俺としては上級2年になることが求められるという訳か……
だから色々問題に巻き込まれたりして引きこもりみたいになるのを防ぐためにあまりそういう人がいない特別学級に入れたのか、父さんは。それなら理由もわからなくない。
こういうのは先に見ておくべきだったな。
早く気づいてよかった。
◇◇◇
「文人は大丈夫だったか……?」
「本人的には大丈夫っぽいよ」
「そうか」
「でも、本人にも知らせずに特別学級に入れるのはおかしいと思います」
「なぜだ波留人。お前もわかっているだろう? 一級貴族というものを」
「ですが、子供は親の持ち物ではありません。相談くらいはして下さい」
水風波瑠輝は長男である水風波瑠人の歯向かいにため息をつく。
「あの子はまだこの世界のことを知らない。危険から守ってあげるのが親の仕事だ」
「お言葉ですが、文人はそんなに弱くないと思います。それに、危険でも、そういうものに触れることも大事だと思いますが」
波瑠人は思ったことをどんどんぶつけていく。
「それをしてお前がそうなったのではないか! 文人はお前より弱い存在であることはわかっているだろ?」
「俺と文人は違う!」
波瑠人は声を荒らげる。
「それが父親にする態度か?」
「もういい」
波瑠人は部屋に戻って行ってしまった。
波瑠輝は大きくため息をついた。
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