第5話 入試

 ◇◇◇


 そして入試当日になった。


 俺は会場に車で送ってもらった。

 この世界の技術は元の世界と変わらない。当然、車も存在する。

 そして車を降りるとなぜか俺に視線が集まった。


 周りの人はしっかりとした正装の人が多かった。俺は正装の類は持ってなかったのでパーカーを着ている。まあ、俺がパーカー最高主義(仮)だからっていうのもある。


「あれ水風家の方だわ」

「実力やばいらしいよ」

「初めて見た……」

「お兄さんと同じくカッコいい……」


 俺には執事とか、護衛とかは付いてきていない。俺が断っただけだけど。兄ちゃんもいなかったし、いらないかなって思った。


 それに、俺はほとんど外に出てないのになんで俺一級貴族で水風家の人ってバレてんの……!?

 兄ちゃんがカッコいいのは認めるけども……


「君、水風家の人?」


 誰かが話しかけてきた。


「まあ、そうだよね。あの車、一級貴族の車だし、君、黒髪だし」


 そういうのでみんなわかってたのか……


「でも君、見たことないね? もしかして、意識不明だったって、君のこと?」

「俺たちも一級貴族だからさ、同じもの同士仲良くしような」


 話しかけてきた一級貴族は2人。ざっくり言うと、1人は水色の髪のやつ。もう1人は薄い黄色の髪の色。髪の色が一番覚えやすかったからこれで覚えておこう。


「俺、久遠くおん竜喜りゅうき。よろしく」

「俺は宮瀬みやせ龍杜りゅうと。君は?」

「……」


 さすがに初対面の人に能力使うのはなぁ……


「答えろよ。もしかして、喋れないのか?」

「まだ言語能力が備わってないのに受けに来たのかよ……」

「お前と同じところに分類されるのは嫌だね。さっさと諦めるんだな」


 なんだこの手のひら返しは……


「お前は受からない。王国高等には、絶対に」

「話しかけて損したよ」


 そう言い残してそいつらは去っていった。

 周りの人もこの一級貴族同士の争いに引いてるみたいだった。

 まだ何も始まってないのにめっちゃ悪目立ちしてるじゃん……このままだと取り返しつかなくなるな……


 俺は足早に会場内に向かった。



 受付を済ませて最初の筆記試験の会場に入った。さっきのあいつらとは違う部屋みたいだった。それはよかった。

 周りの人はみんな俺のことを見てる。隣の奴に見られるのはすごい気になるからやめてほしいところ。

 だからといって何も言えないのはちょっと辛いかな……


 まあ、試験が始まればこっちを見てるのはカンニング行為になるからやめるだろう。


 そして試験監督らしき人が入ってきた。


「もうすぐ始まるので席に着いてください」


 その人の呼びかけでみんな座った。


「試験のルールはこの通りです」


 その人はみんなが座ったのを確認した後、ルールが書いてあるポスター的なものを指差してそう言った。


 そして問題用紙が配られた。


 1教科40分を3教科。午前中はこの筆記試験の時間になる。そして午後が剣と魔法の実技となる。100点満点で全部で500点満点。総合的にできないと合格はできない。結構な壁だな……



「それでは始めてください」


 1教科目、国語が始まった。


 ◇◇◇


 1教科目、国語。2教科目、数学。3教科目、理科。全ての筆記試験が終わった。


 感触としては結構できた気がするけど、実際はどうかわからない。こういう感触が当たった試しはない。


 まあ、とにかく筆記試験が終わってよかった。これで午後の対人戦闘試験に集中できる。


 そこから昼休みを挟んで午後の試験が始まった。

 ほとんどの人が午後をメインに考えてきてるようだった。広場で魔法の最終調整をしてる人が結構いた。どれもそんなに強いようには感じられなかった。

 どうであろうと強い人は強い。そんなもんだった。


 俺は今からやるのにあまり体力を消耗したくなかった。だから調整はしなかった。調整してもしなくてもそんなに変わらないことは実証済み。結局はその人の実力なんだ。


 そして午後の実技試験の会場に集まった。


 みんな動ける服に着替えていた。まあ、制服じゃそんなに動けないってのはわかる。


 そして対人試験が始まった。この対人試験は学校内のバトルフィールドで行われ、在校生も見に来る。次入学してくる生徒がどれくらい強いのかは確かに知っておきたいところかもしれない。


 待合室にモニターがあってそこに今やってる対戦の映像が映っている。終わった人も観覧席で見ることができる。まあ、帰ってもいいんだけど。


 特に目立ったこともなく、俺の番になった。俺も穏便に済ませたいところだ。


「お前が水風文人か」

『はい』

「この試合だけは身分の事は忘れてほしい。嫌なら代役もいるが」

『大丈夫です。そのかわり、ちゃんとやってください』

「は、はい」


 審判の人の準備ができたことを確認して今回の相手は俺と目を合わせる。


「ほんとだったんだね。すごいね」


 恐らく『言霊』についてきたテレパシーのことだろう。


『他の人も待ってるんで早くしてもらっていいですか』

「そう……だな」


 その人は俺と少し離れたところで構えた。


「始め!」


 審判の人の合図でお互いに向かっていく。

 そしてお互いの剣がぶつかり合う。これで大人の全力と言われれば引くレベルで弱かった。絶対に手加減してる。当たり前だけど。


 そして一旦距離を取る。


 とりあえず使わないといけないルールだから炎魔法をぶつけた。結構な火力が出ていた気がする。少なくともいつもよりは出ていた。戦闘になってるからだろうか……?


「以上だ。結構すごい……一級貴族様とはいえ、ついこの前まで意識なかったんだろ……」


「そこまで!」


 審判の人の合図で対戦が終わった。


 俺はとっととそこから去る。


「お、おい!」


 相手の人が俺を引き留める。


『しょうもないことを話してる暇があるなら早く次の人に行ってください』

「あ、はい」


 単純に俺が話したくなかっただけだけど。周りの人から見れば独り言言ってる人か、俺が無視してるかどっちかに見えてるのだろう。多分。



 出口から外に出ると、兄ちゃんが待っていた。

 そして兄ちゃんは俺の頭を撫でた。


「なかなかやるじゃん」

『ありがとう』


 どうやら兄ちゃんも見ていたようだった。


「どうする? 見ていくか?」

『一応。見たい人がいるから』

「誰?」

 それはもちろん、

『久遠竜喜、宮瀬龍杜』

「あいつらか……なんかあったの?」

 あったけど、特にどうってことはない。

『いや、別になにもない。ただ、見ておきたい』

「そっか。なにかあったら言うんだぞ」

『わかってる』


 俺たちは観覧席に入った。

 そこでは次の対戦が始まっていた。だから俺が入ってきたことには誰も気づいていない。



 何戦か後、宮瀬龍杜が出てきた。

 周りがざわつき始める。やはり、一級貴族は注目なのか……


 対戦が始まるがすぐに終わってしまった。まあ、他の奴と比べたら確実に強いのはわかるけど、実際のところはわからない。

 でも周りの印象は好印象で、さすがという反応だった。



 そしてその次、久遠竜喜も出てきた。

 さらに周りがざわつき始める。誰が優秀で強いのか、それは結構広まっているようだった。


 こちらもすぐに終わった。多分そんなに全力でどちらもやってないだろうから、すぐに終わるんだろう。むしろ俺は長い方だったと思う。でも生徒がどんな人がいるか見る、という面ではあまりよくわかんないんじゃないかな……?



 そして見たい人は全員見れたので観覧席から出た。


「どうだった? あいつら」

『うーん……あんまよくわかんなかった』

「だよな。俺、昔戦ったことあるけど、その時からどれだけ変わってるかもわかんなかった」

『昔、戦ったことあるんだ』

「まあ、同じ一級貴族だし、一つ下だし、色々あって」

『そっか』

「帰るか」

『うん』


 迎えに来てもらって俺たちは家に帰る。



 今回は筆記はあんま変わらないだろうけど、実技のあれがどう変わるかが合格の鍵かな……もう、運に頼るしかない……


 合格発表は数日後。その数日後まで、一瞬だった。



 家に封筒が届いた。

 ―入試結果について―

 そう書いてあった。


 中を見ると、その紙には合格と書いてあった。


 合格……したんだ……

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