第4話 兄ちゃん
次の日、影斬りはうまくできていた。もうこれは完全習得でいいだろ。
そして夕方、兄ちゃんが帰ってきて対人の練習をすることになった。これは俺から言ったわけではなく、兄ちゃんが「影斬りもできるわけだし、俺の相手しろ」って言ってきたからだ。
とりあえず相手することになったが、なぜか俺が受ける兄ちゃんが通ってる学校、王国高等剣士学院のバトルフィールドを借りてやろうということになった。
その学校に着いたら、兄ちゃんに数人が駆け寄った。
「おー波瑠人じゃん。何だ? 弟か? あの意識不明の」
「邪魔だ。どけ」
「おいおい、それはないだろ。波瑠人クン」
「お前らそれでも上級2年志望かよ」
「悪いか? おらっ」
兄ちゃんが殴られた。こいつら、確実に兄ちゃんのこといじめてるじゃん……俺、どうしたらいいんだ……
俺は今までの事がフラッシュバックしてきた。そして、その瞬間は何もできなかった。
「君もさ、何か言いなよ。お前の兄ちゃん、殴られたんだぞ? 君には無理か。意識不明だったからばぶちゃんだもんな? あはははは」
うざっ……これはどうにかしないとな……
「身体強化」
俺は言霊の力を使って身体能力を強化する。そして俺はまず俺に話しかけてきた奴の腹を殴る。殴った奴とは違う奴だ。そしてそいつを蹴り飛ばす。そいつは一番近くにあった建物に強くぶつかり、動かなくなった。死んではないとは思うが。
そして殴った奴と絡んできた奴を睨む。
「お前、やんのか?」
『やってやるよ』
「しゃ、喋った……? え……? 意識もどってまだちょっとしか経ってないんじゃ……」
「ひよるな。年下だぞ」
そして今度は二人同時に向かってきた。1人は手に炎を持っている。そういう魔法か……
俺はその炎魔法をよける。そしてもう一人を蹴った。当たり所が悪かったらしく、そこに崩れ落ちた。魔法を撃ってきたのは兄ちゃんを殴った方だった。だからそいつを最後殴ろうかどうしようか悩んだ。そしてその間にそいつは逃げようとした。
「逃げるな」
また言霊の力を使って今度はそいつの動きを止めた。そしてそいつを殴ってさっきと同じ建物の壁に吹っ飛ばした。
これでちょっとは懲りたといいんだけど。
「文人、ありがと。あと、ごめん」
『大丈夫。兄ちゃんこそ大丈夫?』
「うん。大丈夫。今日はもう帰るか。来たばっかであれだけど」
『うん』
まあ、対人戦闘の練習にもなったし、言霊も少し試せたからよかった。来た甲斐はあった。
家に帰ってきたあと、兄ちゃんに学校のことを聞いた。
兄ちゃんは今年の初めに入学して早々いじめられて、訳アリ教室という学級になってしまったとのこと。でも、クラスが違くてもいじめは止まらず、当時意識不明だった俺のことまで色々言われていたとのことだった。
それを最初に始めたのは同じ一級貴族の奴でそこから他の人にも広がっていったんだと。
こういう身分制度がある中で一級貴族の兄ちゃんにここまでするとは誰も考えてなかったと思う。まあ、父上に言えばそいつらにはそれ相応の制裁が加えられるだろう。でも兄ちゃんはそれはしなかった。しても、最初にしてきた一級貴族は制裁を受けない可能性がかららしい。
とにかく兄ちゃんにとっては、今日のあいつらは平民で、あんだけやれば大丈夫という見立てらしい。
そして俺はひとつのことについて聞いてみた。
『兄ちゃんってさ、この名前に聞き覚えない?
「レイ……なんか、知ってる。でも誰かは………………」
少しの沈黙のあと、兄ちゃんはさらにこう言った。
「変……な、記憶が……でもこれ……何……?」
『信じてもらえないかも知れないけど、俺、多分転生してきた』
「転生……?」
『それで、俺の死んじゃった兄ちゃんが怜で、兄ちゃんの首にある傷、ちょうどそのあたりに腫瘍ができて、生まれる前に死んじゃったっていうのがあって……』
「うん」
『なんか俺、すぐに兄ちゃんのこと、兄ちゃんって思えて……もしかしたらって思った』
「俺、なんか変な記憶が俺の記憶の一番下にあって、そこで呼ばれてたのがレイ……だった気がする。もしそれなら、俺も文人も、こことは違う世界から転生してきたってことになるよね。それってほんとうにあり得るのかな……?」
『確かにそうだけど、俺は現に記憶がある訳だし……兄ちゃんも……』
「そう……か……なんか、運命って感じだな」
『うん』
ひとつ解決した。最初からずっと考えてたこと。兄ちゃんは向こうの世界での兄ちゃん、里見怜なんじゃないかということ。首の傷と、短期間で馴染めたこの感覚、明確な根拠は無いに等しいけど、可能性は高かった。
「まあ、そうだよなぁ……それならあり得るか」
『ん?』
「いや、文人、最初から読み書きできてたからさ、転生とかそういうのならありえるなって」
『まあ……そうだね』
それはそう。それが転生に関する一番の証拠だったか……
『兄ちゃん、そういえば、何で怜の時の記憶、覚えてるの?』
生まれる前の、一番下にあるような記憶を覚えてるのもおかしい気がした。俺でも、一番昔は3歳くらいの時の記憶だ。
「それは……」
少し黙って俺の耳元でこう言った。
「俺の能力、『超記憶力』だから」
『超記憶力……?』
「名前通り。記憶力が凄いってこと」
ほう……だから覚えてるってことね……
「これ、秘密にしといた方がいいよね? 転生とかのこと。変な風に思われちゃうし」
兄ちゃんがそう聞いてきた。確かにそれはそうか……
『うん』
「じゃあ、そういうことで」
そう言って兄ちゃんは部屋から出ていった。
さて。俺の能力、どうにか研究しないとな。使い方はちゃんと知っとかないと。
俺の能力はおそらく言ったことが本当になる、又は発言に魔法がかかるようになっている、このどっちかだろう。
どちらにせよ『死ね』と発言すれば死ぬ。『治れ』と発言すれば怪我が治る。まあ、普通に考えて代償といえば、命にかかわるほど疲労が大きくなるだろう。死ぬ生かすそういうことはなるべく使わないようにしよう。でも、最悪それで負け確状況を打開することも可能……使い方によってはだけど。でも使わない手はないな。
危険性は高いから衝動的に使うのは危なそうだな。ほんとにピンチの時だけ使う、それでもいいな。人並みの魔法や剣は使えてるわけだし。
使える魔法は一般教養の範囲で火を起こす・消す、水を発生させる・操る、水を凍らせる、電気を流す、光を発生させる・消すはできる。
剣に関しては人並みの対人戦はできるだろうし、家の継承技『影斬り』もできる。言霊を使うまででもないか……
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