第7話

翌日の月曜日。

昨日は色々考えて眠れず結局寝坊してしまった。学校へ全速ダッシュで向かい、なんとかチャイムに前に校門を潜り抜けた。汗まみれで席に着くやいなや、朝のホームルームが始まる。


「はい皆聞いてー。一時目はクラス時間ね」

「えーっと、9月に学園祭あるから、出し物決めといてね。あとは委員長よろしくー、私はちょっと職員室に用事あるから」


奥野先生はいつもこんなゆるーい感じだ、美人なんだけどね。用事というのも大概怪しい、俺の見立てでは適当な口実をつけて、職員室でコーヒータイムを楽しんでる説が有力だ。


東野が教壇に立つ。


「じゃあ、学園祭の出しものを決めてくね。みんな何かアイデアあるかな?」


‥‥‥誰も手を上げない。


何か決めごとする時、中々最初に発言する奴いなくてクラスに微妙な沈黙流れる事って、あるよね。


「うーん、そしたら一旦近くの人達と相談してみて貰えるかな?10分位したらアイデアを聞いていきますね」


ざわざわと話し始めるクラス。さてと、誰と相談すればいいのかと考えていた時、虎見が話しかけてくれた。


「学園祭楽しみだね、黒峰くんは何やりたい?」

「ん?おお、そうだな~詰め将棋教室とか?」

「地味だけど楽しそうだねーイエイイエイ」


土曜日はあんな事があったけど、話してみたらいつもの虎見だった。なんかちょっと意識してしまっていた自分が恥ずかしい。なんやかんやであっという間に10分たった。


「皆アイデアまとまったかな?赤城さんとかどう?」


赤城さんはギャルだ、派手目な外見と明るい性格でクラスの中心的存在の1人で、俗にいうカースト上位者ってやつだ。発言力もあり、気軽にアイデアを言ってくれそうな生徒に最初振るあたりにも、まとめ役としてのスキルと、東野の頭の良さが垣間見える。周りの為に頑張っているそんな姿も好きだったんだよな‥‥‥あーやっぱり東野と付き合いたい。ラブコメ小説とかなら、こういう文化祭とかで一気に距離が縮まったりとかあるけど、現実はかくも厳しい。このイベントで東野と仲良くなれる未来が見えてこない、なんならこちとら土曜日のあの一件以降、喧嘩中みたいな感じまである。


「え~なんかぁ、タピオカとか?ラテアートとかして~えぐい可愛い制服でぇ、ゆるふわなカフェ開くみたいな?したらうちらテン☆上げ↑で文化祭ブチアガリで最強なれるんじゃね?みたいな?」

「卍アガルー」「赤城っち天才すぎわろた」「そのアイデアまじヤバ谷園なんですけどぉ」


周りのギャルたちが次々に賛同する。


「赤城さん意見を出してくれてありがとう。カフェを開くってアイデア素敵だと思うわ。皆はどう思うかな?他に意見とかあればどんどんいってね?」

「えーなんだろう」「でもカフェいいかも」「ね!可愛い制服とかきたーい」「ていうか、試食でタピれるのよくない?」「たしかに!美味しいの食べれるし、楽しそう」


女性陣から次々に上がる賛同の声、これはもうカフェの流れかな?

そんな最中、ぶっこまれる一言。


「まーいんじゃね、でもまじ女子力〜(笑)って感じだな」


一瞬静かになる教室、立ち上がる赤城さん。


「ヒロヤあんた喧嘩売ってんの?」

「いんや、いいんじゃねゆめかわ〜(笑)な感じで」

「あ?馬鹿にすんなし?だまってろよキモ男」

「あ?きもいっていった方がきもいんですー」


ヒロヤと呼ばれた男子も立ち上がる。

五月雨ヒロヤ__両耳元にピアスをあけ、派手目に染めた髪。不良という程ではないにしても普段から少し斜に構えてる感じの印象だ、バンドを組んでるらしく時々ギターケースを教室に持ち込みこれ見よがしに演奏してたりする。あまり絡むことがないのでよく知らないが、赤城と昔付き合っていたが、喧嘩別れしたとかなんとか。


「てめ、黙って糞なギター引いてろよ、てめぇは昔から色々とヘッタくそなんだよ、何がギターで磨いたフィンガーテクだよ」

「は?ギターは関係ねぇだろうがよ、それをいったらお前だって昔付き合ってた頃__」


ちょ、うわぁー頼むから今痴話喧嘩は止めてくれ~教室の空気が変な感じなってるし、折角話がまとまりかけたのに、東野も困惑してしまってる。


「あ、あの?2人とも落ち着いて、折角の文化祭」

「東野には関係ねぇ、口出すんじゃねえよ、お節介委員長」


悲しそうな顔をする東野、流石に今のは言い過ぎだ。東野はクラスの事を思っていつだって皆の為に頑張っている。それなのにそんな物言いはあんまりだ。何より俺は、好きな人のそんな顔を見ていてもたってもいられなくなってしまった__


「あの!」


急に大声を出した俺にクラス全員の注目が集まる。やべ、やっちまった‥‥‥


「あ、いや、さ、そろそろ先生戻ってくるから、そうなったら今の状況見られたらまずいかな~、なんて」


教室が一瞬沈黙する、東野がパンっと手を叩く。


「そうね!先生に見つかったら、ややこしい事になっちゃうわ、2人に課題とか出してくるかも、奥野先生飄々としてるけど、生徒に罰を課すときは活き活きしてるもの」


微妙にディスられる奥野先生、東野にしては珍しい類の冗談にささやかな笑いが起こり、教室の空気が和らぐ。(だが事実である。奥野先生はその容姿に反して、なんというか、残念ポイントが多すぎるのは否めない)2人も少し落ち着いたのか、自分の席に座り直す。


「という事で、一旦さっき文化祭の出しものだけ決めちゃいましょうか?」


この流れをそのままに、ノータイムでクラスを出しものの話し合いにもどす東野、本当にタイミングをわかっている。


「それじゃあカフェ案以外にアイデアある人はいますか?」


誰も発言しない。流石にまださっきのいざこざの空気が残ってるか‥‥‥


「黒峰君とかどうかな?」


え??なぜ俺!?困惑する一方で、喧嘩中だと思っていた東野から話かけてもらえて、嬉しい気持ちになる。もしかしたら東野はもう怒ってないのではないかとすら期待してしまう。


「え、えーと、詰将棋教室、とか?」


俺がそう言うと、何がツボなのか分からないがブフッ、と吹き出す五月雨ヒロヤ。


「いや、詰将棋て、それならカフェのがいい」

「確かに、詰将棋よりは笑」「ゆうてタピオカは飲みたいしな」


カフェに反発してたヒロヤがそう発言したことで、周りの男子達も次々同意する。詰将棋いいじゃないか!そんなに笑うことないだろ!?


「カフェ案が人気ですね、時間も時間なのでじゃあ一度それで決議をとりますね。カフェ賛成の人は拍手をお願いします」


教室中に鳴り響く拍手、ヒロヤもだるそうにしながらも手を叩いていた。


「賛成多数と見ましたので、一旦カフェ案で決定という事にさせていただきます。皆さんご協力ありがとう御座いました」


かくして、俺達のクラスはカフェをやることになった。はあ、無事に決まって良かった‥‥‥ほっとしていると、隣の虎見がこっちを見て、小さく囁いた_黒峰君格好良かったよ、と。

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