第3話
スマホを見ると、ディスプレイにはクラスメイトである虎見の名前。手早く彼女からのメッセージを確認すると、少々意外な内容だった。
『こんにちは。今日、学校で言い忘れてしまったんですけど、明後日の日曜日って何か予定はありますか。一緒に犬カフェに行きません?無料になるチケットを頂いたので』
俺と虎見は頻繁ではないにせよ、時折連絡を取るくらいの仲だ。とはいえ、特に内容の無い連絡がメインだったし、ましてや、2人で何処かに出かけたことなど未だかつて無かった。
……これってまさか、デートのお誘い?だとしたら結構一大事なんじゃないの。今までにクラスの女の子とデートなんてした事なかったし。どんな服を着ていこう?!
などと、一瞬舞い上がってしまった。しかし、これではフラれたばかりだというのに、もう他の女に手を出す駄目男ではないか……断るべきだよな?とはいえ、何といって断るべきか。
『東野にフラれて傷心中なんで、サーセン!』
いや、馬鹿すぎる。第一、東野にフラれたという事実を誰にも知られたくないし、こんなのは却下だ。そうこうして数分間返信内容を考えていると、またしても虎見から連絡が来た。
『弟と行く予定だったのですが、急用が入ったらしくて。無料の期限が明後日までなんです。どうしても行ってみたいのですが、一人で行くのには抵抗があって……』
そういえば以前言っていたな。動物、とりわけ犬が大好きなんだけど、家では飼う事が出来ないって。確かに教室で話をしていても、良く動物の話をしていたことが印象的だった。確かに、一人でああいう場所に行くって勇気いるよな。
そのうえで、どうしようかと再び悩んだが、普段から世話になっていることを考えると無碍にするには少しばかり心が痛んだ。虎見は何気に成績が優秀で、頻繁にノートを写させて貰ったり勉強を教えて貰っている。このくらいは力になっても罰は当たらないか……
考えた結果、俺は虎見に向けてメッセージを短く送ることにした。
『俺で良ければ付き合うよ』
そうして迎えた日曜日の当日。
渋谷に15時待ち合わせという事で、モヤイ像の前で一人立ちすくむ俺。現在は待ち合わせの10分前、俺と同じように、周りには待ち合わせをしている人がちらほらといた。特に意味もなく、スマホをいじってていると、周りからヒソヒソと声が聞こえてきた。
なあ、あの娘さ。かなり可愛くね?
マジだ、レベル高いな。彼氏待ってんのかな?
お前、声掛けて来いよ。
いや、無理っしょ。ゼッテー彼氏いるだろ。
その声が気になり、そんなに可愛い子がいるのかと、思わず顔を上げる。渦中の人物と思しき女の子に視線を送ると、確かに可愛い女の子があたりをきょろきょろと見渡していた。
服装は至っては普通だ。膝下まである白いスカートに、淡い水色でゆったりとしたニットのサマーセーター。そういったシンプルな装いが映えるのはあの子自身の肌の白さなのかもしれない。
小犬を思わせる様な、クリッとした瞳が印象的な子だ。何かに気が付いたその子は、俺の方へとトタトタと駆け寄ってくる。
「こんにちは、黒峰君!今日は宜しくお願いしますね」
「う、うん。こちらこそ」
正直驚いた。いや、クラスでも人気があるという話を聞いたことがあっけど、普段は化粧とか全然していなかったし。でも、今はうっすらとだけど化粧をしていることが分かった。何ていうか、いつもより大人っぽくて。可愛いのに綺麗というか。
いつもとは違う同級生の姿に戸惑っていると、手のひらを顔の辺りでフリフリとされた、。
「おーい黒峰君、ぼーっとしているけど大丈夫ですか。もしかして熱中症?」
ちょこんと首を傾げる動作が、また似合っていて言葉に詰まった。
「い、いや。その、いつもと雰囲気が違うから少しだけ驚いてさ」
「そ、そうなんですよ。折角のお出かけなのでおめかししちゃいました。変じゃないですか?」
「あっと、その……可愛いと思います」
少しだけ目を開いた虎見は少しだけ頬を染め、 “嬉しいです”と小さく呟いた。本当に小さな声でだったけど。
「それでは、早速ワンチャン達に会いに行きましょうか」
彼女のその言葉によって、俺たちは歩を進める事にした。
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