第2話
ようやく学校が終わって、急いで家路についた。今日は早い所寝てしまおうと考えながら、フラフラとした足取りで歩を進める。
家の前で、財布から自宅の鍵を取り出そうとポケットをまさぐっていたとき、背後から柔らかい何かに飛びつかれた。
「お兄ちゃんっ、おかえりっ!」
「なんだ、エリカか」
「あーっ、何その反応!なんだとはなによぉ!折角可愛い妹がお出迎えしてるのに」
「自称な」
白馬エリカ、隣に住む幼なじみで妹のような存在だ
エリカはイギリスと日本のハーフで、その髪色は煌めくブロンド。瞳は綺麗なブルー、日本とイギリスのいいとこ取りをしている様な容姿の持ち主だ。ちなみにあどけない顔つきに反して、その胸には大層たわわなものが実っている。
イギリスの遺伝子恐るべし。流石は平均Eカップの巨乳大国である。
家族同士も仲良くて、昔から何かと、お兄ちゃんお兄ちゃんとまとわりついてくる可愛いやつだ。たまに、まとわりつきすぎる事もあるが‥‥‥
「お兄ちゃん成分補充~」
「分かった分かった。暑いから離れろって」
「むー、お兄ちゃん冷たい」
成分補充といって抱きついてくるエリカ。慕ってくれるのは嬉しいけど、もう少し男子に対する距離感とか考えた方がいいのでは?今年中2でしょ、お年頃なんだしさぁ。
「お前クラスの男子にもこんな感じなのか?勘違いする奴いるから、気を付けた方が良いぞ」
「こんなことするのお兄ちゃんだけだもん」
大きく膨らませた頬から、ブーと空気を漏らしている。
「まあ、いくら兄妹みたいに育ったといえな。適度な距離感?みたいなの、あるじゃん」
「むぅーーお兄ちゃんのばかっ!鈍感っ!スケベ!えっち!折角いいもの持ってきてあげたのに!」
「スケベとエッチは関係ないだろ。で、いいものって?」
そう言った瞬間、悪戯っぽく笑みを浮かべ、鞄からラッピングされた袋を取り出すエリカ。表情がコロコロ変わって、まるで小動物みたいなやつだ。
「ふっふっふー!じゃーん!みてみて!お兄ちゃんのためにお菓子焼いたの」
「おお」
「美味しいお茶も用意したの、アフタヌーンティーしよ!」
やけに準備が良いな。今日ってなんかあったっけ?
「夕食前に食うと太るぞ」
「またそういうこと言う!もうっ、お兄ちゃんのいじわる!ふんだ!ほらっ、いいから座って!」
半ば強制的にソファーに座らされる。そして、何故か俺の膝の上に乗っかると、
「ちゃくりーく」
ブロンドの髪をフリフリとさせて、随分と上機嫌のご様子だ。
「離陸しなさいよ。何で俺の膝の上なんだよ」
「だって、ソファーが狭いんだもーん。イェイイェイ」
「滅茶苦茶スペース余ってるよな」
本当に子供の頃から変わらない流れ。だけど、そんな何時も通りの様子に少しだけ救われる。
「それより、クッキー美味しい?お兄ちゃんが元気出ますようにって焼いたんだよ」
「おお、ありがとな。甘くて美味いよ。‥‥‥って、元気が出るようにっていうのは?」
「告白、うまくいかなかったから凹んでるんでしょ」
ブフッ!っと紅茶を吹き出しそうになる。
「え、いや、何でそれを?」
「みてれば分かるもん、なんだかやけにそわそわしてると思ったら、昨日と今日は凄い落ち込んでるし」
そんなに分かりやすかったか?こいつにまで心配掛けて情けないな。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「ま、なんてことないって」
嘘だ。なんてことない訳がないのに、妹みたいな存在のエリカの前だから、つい反射的に強がってしまう。
「お兄ちゃんの良さ、私は沢山しってるよ、お兄ちゃんは、ちょっと鈍感な所もあるけど本当はとっても優しい人、だから私はーー」
「ありがとな、心配してくれて、でも大丈夫だから、そこまでダメージあるわけじゃないし」
あまり触れられたくない話に触れられ、そそくさと立ち上がる。
「あ、お兄ちゃん」
「お茶もお菓子も用意してくれて、ありがとうな。嬉しかったぞ、ちょっとやる事あるから残りは部屋で食べさせて貰うわ」
まだ何か言いたげなエリカの姿を背に、逃げる様に部屋へと向かった。
PCを立ち上げ、昨日アップした動画の再生数を確認する、現在の再生数は41万回。まだ、投稿から12時間しか経っていないのにこれか‥‥‥。
yo-tubeの登録者数が50万人を超えたら、東野に告白しよう。と、あの日決意したのだ。夏休みが終わりを迎えた頃、ちょうどその目標を達成することが出来た。そして、勢いをつけて告白した結果があれだ。
正直フラれたショックは予想以上だった。失恋ってこんな辛いものだったのかと、やりきれなくて叫びだしたくて、そんな気持ちを歌った動画を、ノリで昨晩アップした。そんな勢いだけで作った動画が、過去一のスピードで再生数が伸びたのだから皮肉なものだ。今日は幸いにも東野と話す機会もなく1日が過ぎた。でも週明けには顔を合わせる事になるだろう。同じクラスである以上避けては通れないし、変に気まずい空気を作る事も避けたかった。
‥‥‥どうしたもんかな?
打開策を思いつけないまま、益々気分だけが落ち込んでいく、落ち込みループの底なし沼に落ちていきそうになった時、ぶるぶるとスマホが短く鳴った。
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