第2話:接触

「ぜっっっっっったいダメだ!!」

キャッチャーフライでチェンジである。

新島明は、結子の日頃の部活動における横着な態度を真摯しんしに熱く叱責しっせきした。

「君、さんざん部活サボっといて『新しい部を作ります。はいさようなら』?。ふざけんじゃないよ!!」

ガツーンと頭たたかれた気分で結子は言葉が出ない。

ごもっともである。

なおも新島明は真剣に顔を赤らめ怒る。

「君なあッ、こっちは毎日出席とってんだぞッ。ちゃんと君の名前も忘れずに呼んで管理してんだッ。どうしていつまでもはっきりした態度を取らないんだッ」

「すみません……」

「今、残ってる部員は遊び半分でやってるヤツなんていないぞッ。みんな夏の都大会めざして頑張ってるんだ。分かってるのか!?」

「はい……」

「君がやる気が無いならそれでいい。でも、3年に上がる前に部活動の更新をするかしないかの手続きがあっただろう!。そこで君はバスケ部を続けると手続きしたんだ。なら、何で部に出てこないッ?。内申書を良くしようっていう理由で籍を置いているんなら僕はもっと君の内申書を悪くしてやるぞッ」

予想外のややこしい話になってきたので結子はアワアワと焦る。

「いえッ、違うんです!。内申書のためじゃないんです。これは誓ってッ。私、ホンマに音楽やりたいんです。やっと見つかったんですやりたいことが」

「だったらまずキャプテンの川嶋に断れ。いつも出席とって君の欄にもチェック入れて管理してるんだぞッ。そんなこと考えたことあるのかッ」

「……」

結子がフロアを見ると主将・川嶋美奈子14歳とバチリと目が合う。

気まずい。

汗ダラダラでディフェンスのフォーメーションの練習をしている川嶋美奈子の目は結子を射貫いぬくような鋭さだ。一生懸命な人間の鋭い眼差しだった。

しかし、結子も彼女なりに一生懸命考えに考え抜いた末に出した「軽音楽部新設」という結論である。ここは引き退がれない。

「すんません。でも、私、音楽やりたいんですッ。お願いしますッ、やらせて下さい!」

結子は思わずひざまずいて反射的に土下座しようとした。

「やめろッ……」

ひょいっと新島明に軽々持ち上げられる。

「わたし……わたし……」

もうしどろもどろ。

結子は目を真っ赤にして今にも泣きそうである。

卑怯ひきょうな涙ではない。

純粋に新島明の誠実な迫力に伸されて感極まったのである。

女の涙は魔物だ。

新島明はやっとやれやれと折れる。

「もう分かったッ。その代わり、部員一人一人に謝ってこい。『途中で辞めるんで、すみません』って全員に謝れ。できるか?」

「分かりました」

と、結子は従順に返事をし、ガバッと振り向いて選手一人一人のもとへとダッと駆けていった。

〝そんな恥っさらしの土下座外交なんて出来ないだろう〟

と高をくくっていた新島明だったが、次の瞬間新島明の期待はいとも簡単に裏切られる。

なんと結子は部員総勢25人一人一人にペコペコ平身低頭に謝罪したのである。

しかも、入学してきたばかりの右も左も分からないまだ12歳の1年生にまで!。

本当に隅から隅まで部員全員に謝罪したのだ……。

このプライドを忘却したの結子の姿には、さすがに強気だった新島明も一定の評価をせざるを得ず、

渋々というか嫌々な表情で、ようやく結子の正式な退部を認めたのである。

根負けしたのである。

頑固というか信念というか、結子の粘り勝ちだった。

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