第4話 キングオブポップのような起動キーでしか飛行できないようです
目が覚めると見知らぬ場所にいた。
辺りには鬱蒼と木々が生い茂り、空はいつの間に夜になったのか、暗く星々が煌めいている。
上体を起こし、まだじんわりと痛む後頭部を擦る。
――あの女、不意打ちとか卑怯すぎるだろ……
「……んなっ!?」
そして俺は自らが先程のV字水着を着ている事に気付く。
股間には勿論【史上最被】の文字。
「いや、だから被ってねえから……そこまでは、多分……って、俺は何を言っているんだ……それより――」
立ち上がり、もう再度辺りを見回す。
すると背後にやけに真剣ぽい刀を見付けた。
こんな所で猛獣とかが出て来たら大変だ。素手では太刀打ち出来ないと思い、その刀を右手で拾い上げる。
そしてまじまじと刀身を見つめる。
「やっぱ真剣……ぽいよな?」
何となく刃を左手人差し指で軽くなぞってみると、焼くような痛みを感じたので、それを止め、その痛む指を確認する。
「って、本物かよ……」
やはりというか指の腹が縦に避け、血が出ていた。
『あー、あー、キャハッ☆もしもーし?後輩君、きっこえってるー?』
どこからともなく部長の声が聞こえた。声質から察するに、どうやらこの空間のどこかにスピーカーがいくつかあって、それぞれから部長の声を発しているようだ。
「聞こえてる。それよりここは?」
『そこは訓練施設の中よ!これからエネミーが現れるからどんどん倒して行ってもらう事になるんだけど、その前にフライングスーツの使い方を説明するわ!』
「色々と文句を言いたい所だがここは分かったとだけ返事しておくとしよう。それで、どうやってこのスーツを使用するんだ?」
『一先ず起動方法から説明する!取り敢えず股間に右手を当てて、左手は後頭部へ回してくれない?』
「こ、こうっすか?」
言われたとおりにやってみる。
『そう!その姿勢は起動キーの第一段階になっているから忘れないでね。で、なのだけれど、そこから今度は音声認証が必要になるわ』
「お、音声認証?」
『ええ、登録はこちらでやっておいたからその認証キーを教える!ただ甲高い声でこうシャウトしなさい……アーオ!!』
「……アーオ!!」
言われた通りに叫んでみる。すると脳内に『起動キーの認証に成功しました』というアナウンスのような声が流れた。
――へぇー、今のが起動キーか……
「……って!これじゃあまるでポップスターみたいじゃないですか!!何ですか!?あんたは俺をキングオブポップにでもしようと!?」
『キャッハハハハハッ!まさしく!まさしくそれね!うはっ!笑わざるを得ない!!腹筋が……腹筋が捩じれるぅ~!ぷー、くすくすっ!』
「…………」
――最悪過ぎんだろ。いや、でも音声認証が『
『あっ、それでもう飛べるようになってるはずだから、後は念じるだけで何とかなるはずよ!というわけでこれからエネミーが出現するから倒して行きなさい!』
「説明が途中から雑になってるような気がするのだが!?」
俺が突っ込みを入れた直後、四方八方にエネミーらしきものが大量に出現した。皆、背中には翅が生えている。身長は俺と同じぐらいだろうか。体型はボンキュッボンなのが殆どだが、残念ながら顔は――
「キモッ……体は女で顔は髭面のおっさんかよ……」
まあ、そんな感じで本当に気持ち悪――いや、気味が悪かった。
「キシャァァァ!!」
早速前方にいたエネミーが長い爪による攻撃を仕掛けてきたので、それを右手に持つ刀を両手でしっかりと持ち、受け止める。
瞬間、キィィィン!!という金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く。どうやらエネミーの爪は金属のそれと同等の物質で出来ているらしい。もし今の攻撃をもろに食らっていたらと思うと背筋に寒気が走る。
『安心して!これはあくまで訓練だから死ぬことは無いわ!でも実戦を想定しての訓練だから当たったら死ぬほど痛い!それだけは気を付けなさい!』
「なにその理不尽極まりないシステム!?でもまあ、攻撃を受けなければ良いだけの話か。なら……先手必勝!!せえい!はっ!!」
せえい!の声でエネミーを押し返して体勢を崩させる。そしてはっ!!という気合の声で横一直線に薙ぎ払う。
「ぎいえええええええ!!」
真っ二つにされたエネミーは断末魔の悲鳴を上げながら霧散するように消滅した。
「何だ、思いの外簡単に倒せるじゃないか……とはいえ――」
――この数は骨が折れそうだ。
いつの間にかエネミーの数が無数に増えていた。周囲の景色はもうエネミーだらけでまるで別世界いるかのような気持ちになってくる。例えるならそう、エネミーしか存在しないエネミーランドに迷い込んでしまったかのような、そんな感じだ。
――確か念じれば飛べるんだっけか……しかし念じると言われてもそのメカニズムを理解していないとちゃんとは飛べないような気がするのだが……どうすれば良いんだ?
フライングスーツの起動には既に成功している。という事は恐らく既に俺の身体には反重力エネルギーとやらが充満している事だろう。だから後はどう飛ぶか?それに尽きるわけだが、残念ながらその詳細については一切聞いていない。ならばここは色々と試す他ないだろう。
――そう言えば部長は飛行の際、特に目立ったアクションは取っていなかったな。という事は本当に考える、というか念じるだけで飛べるって事か?となると……
自分の身体がゆっくりと宙に浮くイメージをしてみる。
するとコンマ数秒後、突然Gを感じなくなり、イメージ通りになった。
「おおっ!これはなかなか良い!」
どんどん足裏と地面との距離が離れてゆく。
ある程度、大体高度十メートルぐらいの距離まで浮くと、今度は滞空するイメージ。すると上昇が止まった。
「何となくコツを掴んできた!案外簡単じゃないか!」
そこから先はもう思うがままと言って良い程簡単に飛行が出来た。正面にいるエネミーにこちらから接近して一刀両断。そこへ背後から攻撃を仕掛けて来たエネミーを攻撃が当たる前に胴斬りで仕留め、そして思うままにエネミーを倒してゆく。
と、ここでふと思った。
――念じるだけで飛べるという事は、つまりイメージ次第でその飛行速度も自在に操作できるって事だよな?となると、部長の常軌を逸したあの動きもやろうと思えば俺にも出来るのでは……?
部長のあの動き、目視で確認は出来なかったが、気配では感じる事が出来た。そのイメージを明確に出来れば俺にも同じ動きが出来るかもしれない。その可能性に気付いた俺は実際にイメージしてみる事にした。
とはいえ、今の俺に目を開けたままでそれが出来るわけもなく、仕方なげに目を閉じる。
まず、明確に自分の位置を脳内にインプット。地面との距離、そしてエネミーの位置を正確に把握した後、一瞬とも言える速度でその間を縫って移動するイメージと同時にカッと目を開ける。
すると即座に高速移動が開始された。
目にも留まらぬ速度でエネミー達の間を縫って移動する。
目に映るのはただ高速でエネミーと同じ色と形の物体が移動している光景。が、実際移動しているのはこの俺の身体なのは言うまでもない。
で、最終的にどうなったかと言えば、俺は把握を誤り、最後の最後でエネミーと正面衝突し、ゲームオーバー。あまりの衝撃にそのまま気を失って、次に目が覚めた時にはショップの中にいたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます