家探し

 散々泣いて、お父さんとお母さんに慰めてもらい、私はようやく落ち着いた。多分、今、酷い顔をしてるんだろうな。顔を洗いたい。

 そんなことを考えていると、私の頭を撫でていたお父さんがいきなり立ち上がった。

「すみれサンが落ち着いたところで、状況を整理しまショウ!」

 ……お父さん、心なしか目がキラキラしているような。

 お父さんは、私に構わず続ける。

「異世界転移したってことと、すみれサンの願い事から照らし合わせて、多分ここは新居デス!」

「このお屋敷が? 三人暮らしなのに随分広い屋敷をくださったのね、神様は」

 お母さんがのほほんと言う。

 え? 待って。異世界転移について受け入れるのが早すぎない?

 戸惑う私をよそに、お父さんは更に盛り上がる。

「まずいきなり外に出るより、家に何があるのかを把握した方がいいデース! 役に立つ道具が見つかるかもしれまセン!」

「家探しね? まあ、どこがなんの部屋かわからないと生活できないわよね」

「家探しはRPGの基本デス!」

 あっ、お母さんはともかく、お父さんはノリノリだ、これ。そりゃあお父さんもオタクだものね。しょうがないね。

「家族全員で手分けしてこの家を調査しまショウ! 夢にまで見た異世界転移の第一歩デース!!」

「新生活ね!」

 嬉しそうだねお父さん! お母さんはよくわかってないかもしれないが!!


 ……というわけで、家族三人で手分けして、屋敷の中を探索することになった。一階はお母さん、二階はお父さん、そして、窓から見えた離れ(この建物もめちゃくちゃ大きい)が私の担当だ。離れまでは、屋敷から伸びる渡り廊下で庭園を突っ切っていく。庭園はよく手入れが行き届いていて、遠くにある噴水の水がキラキラ輝いていた。

 庭園を見ながら離れに到着する。重厚な扉を開けて、中に入ると。

「わあ……!」

 そこは二階建ての建物で、吹き抜けになっていた。薄暗い建物の中は、背の高い本棚が並んでいて、その中には沢山の本が詰まっていた。ここは書庫のようだ。

 ゆっくりと書庫の中に入り、辺りを見回す。本棚に近寄って、並ぶ本の背表紙を見てみた。見たことのない字なのに、読める。なんて書いてあるかが、わかる。

 そういえばエトワールは、言語理解の能力も初期装備につけてくれていたな。まあ、言語が読めない、話せないでは生活する以前の問題だ。

 適当に一冊、本棚から抜き取ってみる。濃い青色の絹で装丁された本には、「空より遠い君の隣に」というタイトルが刻印されていた。これは小説らしい。後で読んでみようかな。

 その後、その本を抱えながら書庫をあちこち歩いて、怪しいものがないかを調べた。しかし、特に何もなかったので、私は渡り廊下へと引き返したのだった。


 家探しを終え、最初に集まったリビングに再び集合した私達家族は、家にあったものについて話し合った。屋敷には、私と両親が寝ていた部屋以外に、台所や食堂、書斎や客室、洗面所や風呂、そしてたくさんの空き部屋があったという。服、家具、食べ物や日用品も揃っていた。ちなみに、倉庫らしき部屋には大量の金貨や紙幣が詰まった袋が山のように積まれていたらしい。お金の心配もなさそうだ。

 私は、書庫について、特に何もなかったことを報告した。

 そして私達は、当面の生活については保証されていると結論をつけた。

 議論がまとまり、私とお父さんが一息ついた、その時だった。

「なんだかんだで、お夕飯の時間になっちゃったわね。皆お腹空いてるでしょう? ご飯の支度するわね!」

 お母さんがにこやかに言った。相変わらずマイペースだ。でも、お腹は空いたので、夕ご飯タイムには賛成だ……あ、いい事思いついた。

「お母さん、私も手伝うよ」

 私はそう言って、お母さんに続いて部屋を出ようとする。すると、何故かお父さんまでついてきた。

「一人にしないでくだサーイ! ワタシも手伝いマス!」

 ……結局、三人で台所に行き、みんなで晩御飯を作ったのだった。

 異世界でも変わらない、私達家族の団欒の時間だった。

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異世界トリップは家族とともに?! 霜月 一三 @66126

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