再会
「ん……?」
柔らかい感触を背中に感じて、目を覚ます。まず飛び込んできたのは、白い天井。私はまた寝転がっていたらしい。
「知らない天井だ、ってね……」
某アニメの台詞を呟きながら、身体を起こし、周りを見回す。
広い部屋には、シンプルだが可愛らしい、私好みの調度品があちこちに置かれている。私が寝ていたベッドも、柔らかくて気持ちがいい上にデザインもなかなかのものだ。
私は、ベッドから降りて、ベッドの脇にあったスリッパを履いた。そして、部屋の隅の姿見に近づく。いつも通りの顔、身体。しかし、服は、エトワールに会った時のドレスとは違う、シンプルなワンピースになっていた。ドレスより動きやすいので助かる。
次に向かったのは、部屋に光を入れている窓。鍵を外して思いっきり窓を開けると、目に飛び込んできたのは、素晴らしい景色だった。
「わあ……」
どうやら私のいる家は小高い丘の上にあり、さらにこの部屋は2階にあるらしい。太陽の光を受けきらきら輝く野原の向こうに、レンガ造りの街が見え、さらにその向こうには海が見える。空には、見たことのない鳥が、変な鳴き声をあげながら飛んでいる。
来たくて来た場所ではないが、それでもこの景色は綺麗だと思う。人の憧れから出来た世界というエトワールの言葉は、本当のようだ。
しかし、いつまでも景色に見惚れていてはいけない。お父さんとお母さんを探さなきゃ。
窓から方向転換しようとする、と、近くの机の上に、カラフルな何かが置いてあるのが目に入った。
「なんだこれ……って、まさか……!」
そこに置いてあったのは、安藤さんに殺された時、テーブルに置いてあったはずの、誕生日プレゼントらしき包み。その横には、佳奈ちゃんがくれたプレゼントと、他の友達がくれたお菓子がたくさん。
両親が用意したのだろう包みに、メモが貼ってあった。
【流石に誕生日プレゼントも開けられずに死んだのは同情するし、君はお気に入りだからサービスだよ! エトワールより】
「エトワール……」
どうやらエトワールは、意外にもサービス精神旺盛らしい。悪趣味な奴だが、こればかりは感謝せずにはいられない。
「さて」
それはさておき、このプレゼント、どうしよう。お菓子はとっておけばいいが、両親と佳奈ちゃんからのプレゼント、今から開けた方がいいかな。いや、でも、お父さんとお母さんを探さなきゃ。あ、でも、プレゼントの感想言ったら、お父さんとお母さん、喜んでくれるよね。
「……よし!」
しばらく考えて、私は誘惑に負け……もとい、決意した。まずは佳奈ちゃんのプレゼントに手を伸ばす。ラッピングを丁寧に外すと現れたのは、四つ葉のクローバーの飾りのついた、革紐のブレスレットだった。クローバーに使われているのはスワロフスキーだろうか。可愛いし綺麗だ。
「佳奈ちゃんにお礼を……あっ」
そうだ。私は死んで、もう佳奈ちゃんには会えないんだ。
視界が涙で歪む。私は目を乱暴に拭った。
次に開けるのは、両親からのプレゼント。これもラッピングを丁寧に外した。すると、包みの中にもう一つビロードの箱があった。そっと箱を開ける。すると。
「わっ……すごい」
革製のチョーカーが入っていた。紐には二連の小さな石がぶら下がっている。多分、上が私の誕生石のダイヤモンド、下は「すみれ」色のアメジストだ。見るからに高そう。ちょっと気合い入れすぎじゃないのか。
でもまあ、2つとも可愛くて、いい贈り物だ。大切にしよう。
私はチョーカーとブレスレットを身につけて、今度こそ部屋を出た。
この家は大きな屋敷のようだった。赤いカーペットが床に敷かれ、大きな窓が等間隔に並ぶ廊下を恐る恐る歩いていく。
と、すぐに別の部屋の扉が見えた。私は扉に近づき、そっとドアノブを回した。
「失礼しまーす……」
ゆっくり部屋を覗く。まず目に飛び込んできたのは、大人二人は楽に寝転がれそうな、立派なベッド。そして、その上に寝ていたのは……!
「お父さん! お母さん!」
その姿を認めた瞬間、私は部屋に飛び込んで、ベッドに駆け寄った。
「お父さん、お母さん、起きて! ねえ、起きてよ!」
眠っているらしい二人の身体を、かわるがわる揺する。すると、最初にお父さんが、次にお母さんが、パチリと目を開けた。
「あれ……すみれサン……?」
「え……ここ、どこなの?」
二人は、身体を起こして部屋を見回し、頭にはてなマークを浮かべている。
と、お母さんが突然顔を青くした。
「ねえあなた、私たち、刺されたんじゃ……」
「あっ……じゃあ、ここハ……」
「お父さん、お母さん!」
二人の不安を吹き飛ばすように、わざと大声を出す。
「それについて、私から、話しておきたいことがあるの……。だから、この屋敷の中で、落ち着いて話せる場所を探そう」
「……わかりまシタ。すみれサンの言う通りにしまショウ」
お父さんはあっさり納得して、お母さんの手を引いてベッドから降りた。そうして私たち三人は、部屋を出た。
「……で、話したいことトハ?」
屋敷はヨーロッパの貴族の邸宅のような間取りだったらしく、お父さんの先導で、あっさりリビングらしき部屋を見つけることができた。
三人そろってソファに座り、落ち着いたところで、お父さんが私に尋ねた。
私は深呼吸をして、話し始めた。
「私も、あの女に……安藤さんに殺された」
お父さんとお母さんが、悲しそうな顔をする。
「痛かったでしょ……守ってあげられなくて、ごめんね……」
お母さんが震える声で言う。私は首を横に振った。
「二人は悪くないよ……で、この後が本題」
私は二人を真っ直ぐに見据えて、口を開く。
そうして、神様に会ったこと、この屋敷に来た経緯、ここが地球とは違う世界だということ、叶えてもらった願い事についても、全てを話した。
「……というわけで、私たちは異世界にいるの。信じられないかもしれないけど……私、嘘はついてない」
そうやって締めくくると、お父さんとお母さんは、顔を見合わせた。
その様子を見て、私は急に不安に襲われた。
お父さんとお母さんを呼び寄せたのは、私の勝手な都合だ。もし二人が、この世界で生きていくことを望んでいなかったら。生きることを拒絶されたら。
そう思ったら、悪い考えは止まらなくなる。不安な心を隠すように、私は下を向いた。
「……すみれサン」
お父さんの声が降ってきて、次に、ぽん、と、頭に手を置かれた。
「一人でよく頑張りましタネ。辛い決断を、たった一人でさせてしまって、本当に申し訳ナイ」
優しく頭を撫でられて、私は慌てて顔を上げた。
「でも、私は……お父さんとお母さんを、勝手に連れてきてしまった……!」
「大切な願い事を一つ使ってでも、私たちと一緒にいたいと願ってくれた。それだけで、お母さんもお父さんもとても嬉しいのよ」
「アリガトウ、すみれサン」
その言葉を聞いた私は、もう限界だった。涙が溢れてくる。お父さんとお母さんは、私と一緒にいることを選んでくれた。
「お父さん、お母さん……!」
私は、二人に抱きしめられながら、声を上げて泣いた。
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