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 晃がいなくなった後、まるで糸が切れたかのように私は地面に座り込んだ。涙が込み上げてきてどうしようもなかった。ぽつり、ぽつりと所々にぼんやりと浮かぶ街灯の灯りが、余計に私を惨めにさせた。

 もういいや。誰もいないし、泣いてしまおうかな。そうして地面を見つめていたその時、男物の革靴が視界に入ってきた。もしかして晃が戻ってきてくれたのかな、なんて、少しだけ期待してしまった。『嘘だよ』って、笑ってくれるような気がして。

 顔を上げて、それはただの私の願望でしかないことはすぐにわかったけれど。


 晃ではなかった。見たことのない、全身黒を纏った男の人だった。恐らく20代だろう。ネクタイこそしていなかったものの、黒いシャツに黒いジャケットに黒いパンツ姿。全身黒ずくめで、端から見て怪しいその男性は、薄暗い中で私を見下ろしていた。


「おい、おまえが"サクラギシオン"か?」


 突然口を開いたかと思うと、なぜか私の名前を知っていた。普通、こんなときは答えもせずにすぐに逃げるべきなのだろうけれど。頭の中がぐちゃぐちゃになっていた私は逃げるより先に答えてしまっていた。


「そう、だけど…」


「おまえか、今回の相手は…」


はあ、と男性は大きなため息を吐いて、それから眉間に皺を寄せた。


「あのジジイ、こんなちんちくりんを俺にまわしやがって…」


そのまま男性はひとりで話を進めている。私は訳もわからず固まっていたけれど、言われた言葉を脳内で再生していた。

 今、何て言った? こいつ、私のこと"ちんちくりん"て言わなかった?

 思った瞬間、カチンと来た。溢れそうだった涙なんて引っ込んでしまった。


「ちょっとあんた! なんなのよいきなり出てきて人のこと"ちんちくりん"呼ばわりして! 何よりまず名乗りなさいよ!」


立ち上がって今にも掴みかかりそうな勢いで捲し立てると、フッと鼻で笑われた。それからそいつは腕を組んで自身たっぷりに言った。


「俺はレン。天使だ」

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