首無しライダー
遠くに見える街の灯りは、まるで地上の星のよう。
時刻は午後10時。私達は依頼があったK峠に向かうべく、山道を走っています。
そう、走っているんです。葉月君の運転する、バイクに乗って。
「あ、あの。スピード出しすぎじゃないですか?」
「ちゃんと安全運転だよ。トモを乗せてるのに、荒っぽい運転なんてしないって。師匠の運転する車より、全然遅いでしょ」
悟里さんを基準に考えるのはどうかと思いますよ。バイクって初めて乗りましたけど、速さの感じ方が、車とはまるで違います。
学校が終わって。待ち合わせ場所に行くと、葉月君はバイクに乗って現れました。
そうして彼の後ろに乗ったはいいけど、吹き付ける風は冷たいし、カーブを曲がる時は振り落とされるような気がして。葉月君の腰に回す手に、つい力が入ってしまいます。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だって」
「べ、別に怖くなんかありません!」
そう答えたものの、密着しているから心臓のドキドキと言う音がバレないか心配。
それにしても葉月君、いつの間に免許なんて取ったのでしょう?
もしかしたら会わない間に、私の知らない部分が増えているのかも。
やがてバイクは、K峠に差し掛かる。話によると、確かこの辺のはずなのですけど。
「————ッ! 霊気を感じました。葉月君、前を走ってるあのバイク」
「ああ。さっきまであんなバイクは走っていなかったのに、突然現れたし。怪しいね」
この道には私達以外いなかったはずなのに、いつの間にか前方にはバイクが出現していました。運転しているのは黒いライダースーツの、おそらく男性。葉月くんは近づくべく、バイクを加速させます。
「……やっぱり。間違いない、首無しライダーだ」
近づいてみて、正体がハッキリしました。離れていた時は暗くて分かり難かったですけど、バイクに乗っているその人には、頭がありませんでした。
これが今回祓うべき相手、首無しライダー。なんでもこの峠で事故死した人の霊で、夜な夜なバイクで走っているのだとか。
昔、クラスの男子達が首無し地蔵にイタズラした事がありましたけど、どうやら私はつくづく、『首無し』と縁があるみたいです。
走っているだけで特に何か悪さをするわけではないみたいですけど、見た人が驚いて更なる事故が起きているのだとか。だから私達に、除霊の依頼が来たのです。
「バイクから降りてくれそうにないから、こっちも走りながら祓うことになるか。もうちょっと近づくから、そしたらトモは除霊を始めて」
「やってみます」
不安定なバイクの上で除霊なんてできるかなとも思いましたけど、葉月君は運転中なんですから、私がやらなくてどうしますか。
葉月君の腰に回していた右手を放し、首無しライダーに指を向けて、滅!
放たれた力が、首無しライダーめがけて飛んでいきます。しかし。
「避けられた⁉」
放たれた光が当たる直前、相手のバイクがギュンと横にそれました。まるで背中に目が付いているみたいに、私の攻撃をかわしたのです。
続けて第二波を放ってみるも、結果は同じ。不安定な体勢だから狙いが定まらないのか、それとも相手が速すぎるのか。
「トモ、連射はできる? 一度に連続して撃って、一発でもいいから当てるんだ。俺も同時に攻撃するから」
「はい。って、運転中の葉月君が、どうやって攻撃するんですか?」
「一瞬だけなら何とかできるって。いくよ」
本当に大丈夫なんでしょうね。撃とうとした瞬間、バイクが横転して二人とも大怪我なんてなったら、笑えませんよ。
けど葉月君はやる気満々で。ええーい、女は度胸、どうにでもなってください!
「「滅! 滅! 滅! 滅! 滅!」」
さっきまでの単発とは違って、まるでショットガンのように。いくつもの霊力の塊が、首無しライダーめがけて飛んで行きます。
ほとんどは外れてしまいましたけど、さすがに全部は避けきれずに、放たれたうちの一発が首無しライダーに命中しました。
「よし、手応えありだ!」
横転こそしなかったものの、バイクの速度はガクンと落ちます。そして私達はというと、一瞬車体が揺れたものの、すぐにまたさっきまでと変わらない走りへと戻っています。
だけどこれって、簡単なことではありません。葉月君、運転しながら一瞬で、術を放ったの?
それをやってのけるには、高い技術と集中力が要求されます。彼は昔から器用だったけど、さすがにここまでではなかったはず。
弱くなったなんてとんでもない。会っていない間に、どれだけ成長してるの?
「トモ。トーモ、話聞いてる?」
「は、はい! ええと、何ですか?」
「今からあいつにバイクを横付けするから、浄化しちゃって。出来るよね?」
「もちろんです」
一発当てればダメージを与えられる『滅』とは違って、『浄』は少しの間手をかざさけなければなりません。さっきまでの勢いで走られてたら難しかったけど、速度が落ちた今なら。
「浄!」
首無しライダーのすぐ横までくると、すぐさま浄化を開始する。
私の手から放たれる光が、闇の中を走る首無しライダーの姿を鮮明に映し出しましたけど、その姿は徐々に薄れていき、最後には跡形も無く消え去りました。
「浄化完了です」
「やったね。さすがトモ、相変わらず浄化の腕はピカ一だ。こりゃあ遊んでる間に、追い抜かれちゃったかな?」
「それはどうでしょう? そもそも本当に……」
本当に遊んでいたのですか? そう尋ねようと思いましたけど、葉月君のことだからきっとはぐらかすに違いありません。
けどさっきの戦いぶりを見ていると、遊んでいたなんて信じられませんよ。
胸に疑問を抱いたまま、私達を乗せたバイクは山道を下って行くのでした。
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