葉月君は格好付け?
山道を抜けて。町まで帰ってきた私達は、コンビニに立ち寄りました。
葉月君は駐車場にバイクを止め。買い物があると言って中に入って行きましたけど、私は同行せずに。今回の結果を、悟里さんに電話で報告しています。
「というわけで、首無しライダーは無事に成仏させることができました。あの、それと一つ聞きたいのですけど、葉月君って向こうにいた頃は、どんな感じだったんですか?」
『おやおや。知世ちゃんの方から聞いてくるなんて珍しいねえ。あたしがいくら様子を伝えようとしても、『葉月君のことなんて知りません』って、ツンデレ全開だったって言うのに。久しぶりに会って、気になっちゃった?』
「か、からかわないでください。まあ、気になることはありましたけど」
『そうだねえ。向こうからの報告だと、まじめに仕事をしていたみたいで評判が良かったよ。私も師匠として鼻が高かったなあ。ただ少し、熱を入れすぎちゃったみたいだけどね』
どういうことですか? 意味深な言い方に、次の言葉を待つ。
『風音は時々学校を休んでまで、祓い屋業に精を出していたんだ。もちろん出席日数は気にしていたんだけど、去年の今ごろ強力な悪霊と戦ってね。ケガをして、入院してたんだよ』
「入院⁉ それで、大丈夫だったんですか?」
『怪我自体は大したこと無くて、ほとんど検査だけだったんだけどね。でも当然学校には行けなくて。出席日数が足りなくなって、留年しちゃったんだ』
そんな、出席日数が足りなくなったのは、遊んでたからって言っていたのに。
だいたい、そんな大事なことをどうして教えてくれなかったのか。いえ、その理由はハッキリしていますね。私が聞こうとしなかったからです。
悟里さんの言うツンデレではありませんけど、ライバル心を変にこじらせて、彼のことを聞こうとしてませんでした。
「わ、私、葉月君に謝ります。何も知らずに、失礼な態度をとってしまって」
『ははは、そんな深刻に考えなくても平気だよ。実はね、この事は知世ちゃんには言わないでくれって、葉月君に口止めされていたんだ。それでも知っておいた方が良いって思ったからこうして話してるんだけど、知らないふりをしておいてくれないかな』
「わざとナイショにしていたんですか? でも、どうしてそんな事を?」
『それは男心ってやつだね。怪我して入院なんて、カッコ悪いって思ったんじゃないの? 好きな女の子の前で、格好付けたがらない男の子なんていないからねえ』
「どういうことですか?」
首をかしげると、電話の向こうからは『くくく』とおかしそうなに笑う声が聞こえてきます。
『こりゃあ風音も苦労するわ。とりあえず、今日の所はお疲れ様。気をつけて帰るんだよ』
結局何が言いたかったのかは、分からないまま。
通話を終えると、丁度コンビニから袋を抱えた葉月君が出てきました。
「師匠に報告はすんだ? って、なんだか難しい顔してない?」
「悟里さんの言っていることはよく分かりませんでしたけど。とりあえず、葉月君が格好付けたがりだってことだけは分かりました」
「いったい何の話をしてたの? まあいいや、それより寒いから、肉まん食べて温まりなよ」
袋から出した熱々の肉まんを受け取ると、冷えていた指先がじんわりと温まってきます。
体が冷えていたので、これはありがたいです。
「……普段はガサツなのに、時々優しいのも相変わらずなんですね」
「なに、俺褒められたの? それともディスられてるの?」
「知りません。でも、肉まんはありがとうございます……んぐっ⁉」
一口かじって、目を丸くしました。口の中に広がるのは、肉汁ではありません。
口から鼻へと抜けていく独特な香り。これは。
「ど、どうしてチーズが入ってるんですかー⁉」
「あ、ごめん間違えた。そっちは俺用に買ってたチーズまんだった」
苦手なチーズにかじりついてしまい、ゲホゲホとむせかえる。
間違えたですみますか。私がチーズ苦手だって、知っていますよね⁉
「せっかく見直したのに、ひどいです。やっぱり葉月君のこと嫌いです。大嫌いです!」
「だからゴメンってば。謝るから許してよー」
まるで叱られた子犬みたいに、しょんぼりする葉月君。けどこれからは、彼と一緒に仕事をしていくわけですから。
しかたがありません。よーく反省させた後に、許すとしましょう。
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