祓い屋とうちの姉ちゃん
まるで綱引きのように山本さんを引っ張りあっていたけど、突然聞こえた誰かの声。
そしたら急に、山本さんを引っ張る力が弱くなった。
「今です! そのままその子を引き抜いてください!」
声のした方に目をやると、制服を着た高校生くらいの女の人が、ツインテールを揺らしながらこっちにかけて来るのが見えた。
だ、誰? いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。今がチャンスだ!
僕はありったけの力を込めて、山本さんを引っ張った。
「わっ!」
「きゃっ!」
さっきまでの抵抗が嘘みたいに、山本さんをあっさりと引き抜くことができて。僕たちは重なるように、地面に倒れた。
だけどまだ終わってない。仰向けになって倒れていると、シミから付き出た赤い手が再び伸びてくるのが見えた。マズイ、このままじゃまた掴まっちゃう。
だけど、無我夢中で山本さんを抱き締めた瞬間。
「浄!」
僕たちと赤い手の間に割って入って来たのは、さっきのツインテールのお姉さん。
赤い手に自分の手をかざしたかと思うと、そこからまぶしい光が放たれて。それに合わせて、まるで蜃気楼が消えるみたいに、伸びていた赤い手の輪郭が薄れていく。
「宗太くん、何あれ?」
「わ、わからない」
僕も山本さんも唖然としながら、その光景を見つめる。
やがて赤い手が完全に消えると、お姉さんが放っていた光も徐々に小さくなっていった。
「……浄化完了。君たち、ケガはありませんか?」
「は、はい。お姉さんが助けてくれたんですか?」
「さっきの手は何? お姉さん、何か知ってるの?」
気になることが多すぎるよ。しかもよく見たら赤い手だけでなく、さっきまでは確かに塀にあった赤いシミが失くなっているし。これも全部、お姉さんがやったの?
「さっきの手は、ここにいた地縛霊のものです。アナタたちを霊界に連れて行こうとしていたんですよ」
「「霊界⁉」」
「はい。昔この辺りに住んでいた男の子が、そこで交通事故にあって亡くなったのです。以来その塀には、その子の怨念が宿ったシミが現れるようになったて。命日が近づくと仲間を欲しがって、同い年くらいの子を引きずり込もうと手を伸ばしてくるのです」
お姉さんの説明に、ゴクリと息を飲む。地縛霊ってたしか、成仏できずに一つの場所に止まり続ける幽霊のことだよね。
「そんな怖いシミだったんだ。なのにあたし、ベタベタ触っちゃってた」
「アナタが触ったんですか? 小学生ってどうして、わざわざ危険なものに近づこうとするのでしょうね」
お姉さんの話はすぐには飲み込めなかったけど、実際に怖い目にあってるし。もしも助けてくれなかったら、僕たちはどうなっていただろう。
「けど、もう安心してください。ちゃんと除霊しましたから」
お姉さんはそっとしゃがんで、僕たちの頭をポンポンと撫でてくる。
「二人とも、よく持ちこたえましたね。特に君、友達を助けるために頑張れるなんて、偉いですよ」
「そんな。僕はただ、怖くて必死になってただけで」
「そんなことないよ。宗太くんがいなかったら、どうなっていたか。ありがとう」
山本さんは満面の笑みを浮かべたかと思うと、なんといきなり抱きついてきた。
突然のことで、目を白黒させる。だけどそれだけじゃ終わらない。
火照った頬に、ちゅっと唇の感触があったのだ。
ま、待って。恥ずかしいよ。お姉さんだって見てるのにー!
けど目をやると、お姉さんは僕よりもずっと顔を真っ赤にしながら、顔を逸らしている。
「と、ととととにかく無事で何よりです。も、ももももう二度と、遊び半分ああいうものにで近づいたらいけましぇんよ」
「は、はい……。あの、そういえばお姉さんは、結局何者なんですか?」
何故か動揺しまくっているお姉さんに尋ねると、まだ少し赤い顔で答える。
「名乗るほどの者ではありません。我を忘れた霊を成仏させに来た、ただの祓い屋です」
◇◆◇◆
大変な目にあったけど、なんとか無事家に帰ってこれて。僕はリビングのソファーに腰掛けながら、さっき起きたことを思い出す。
赤いシミから伸びてきた腕。危ないところを助けてくれた、祓い屋だというお姉さん。
そして山本さんが「ありがとう」ってほっぺにしてくれた、あの……。
「ただいまー」
「うわっ⁉」
急に姉ちゃんが部屋に入ってきて、驚いた拍子にソファーから転げ落ちちゃった。
「あんた何やってるのよ?」
「べ、べつに何も。それより、今日は早いね」
「ん? いつも通りっしょ。それより、晩御飯まだ。もうお腹ペコペコよ」
帰ってくるなりご飯の話。姉ちゃんは陸上部に入ってて、たくさん走ってるから仕方ないか。
あれ、そういえばさっきは気づかなかったけど。あの祓い屋のお姉さんが着てた制服って、姉ちゃんが着ているのと一緒だよね。ということは、同じ学校?
「ねえ姉ちゃん。変なこと聞くけど、祓い屋って知ってる?」
ダメもとで聞いたつもりだったんだけど。祓い屋って言った瞬間、姉ちゃんは目を見開いた。
「祓い屋? あんた、祓い屋を知ってるの?」
「う、うん。頭をツインテールにしてて、お姉ちゃんの学校の制服を着た、『祓い屋』って人と会ったんだけど」
何があったのかを簡単に説明する。オバケに襲われたなんて言ったらバカにされるかもって思ったけど、姉ちゃんは笑わずに。最後まで話し終わると、納得したようにうなずいた。
「なるほど、世間ってせまいわねえ。知世、今日も仕事があるって言ってたけど、まさか宗太と会ってたなんて。明日あたしからもお礼言っておくわ。その子、姉ちゃんの友達だから」
「えっ?」
驚く僕を見ながら、ニカッと笑う美樹姉ちゃんだった。
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