通学路の赤いシミ

ちょっと変わった、祓い屋の友達

上履きから靴に履き替えて、あたし、椎名美樹は校舎を出て中庭へと向かう。

もう11月なだけあって肌寒さを感じるけど、あの子はよくここでお昼を食べているんだよね。

すると案の定、ベンチ腰を下ろす小柄なツインテールの女の子がいた。

「やっほー知世。お昼、一緒に食べていい?」

「椎名さん……どうぞ」

端によってできたスペースに、あたしは腰を下ろす。

この子の名前は水原知世。少し前、校内マラソン大会で知り合った、同級生の女の子だ。

あの時は大変だった。何せ知らぬ間に幽霊……いや、生霊に狙われてたんだもの。

だけどそこを助けてくれたのが彼女。知世は悪霊や迷える霊を静めてくれる祓い屋だそうだけど、あれ以来時々話をしたり、一緒にお昼を食べたりするようになったんだよね。

「今日の知世のお弁当は……って、またおにぎりか」

「すみません、代わり映えしなくて」

「別にいいけど、でもこれだけだとお腹すかない? あたしの唐揚げあげようか。あ、でも祓い屋って、肉食べちゃダメだったりする?」

精進料理があるくらいだから、もしかしたら肉や魚は食べてはいけないのかもしれない。だけど予想に反して、知世は首を横に振った。

「そんなことありません。そもそもお米の原料になる稲や野菜も、動物と同じで生きているのですから。命を頂いていることに変わりありませんよ」

なるほど確かに。よくよく聞くと、お昼が少ないのは作る時間がなかいからだという。何でも昨夜も仕事があって、そのせいで今朝は家を出るギリギリまで寝ていたのだとか。

苦労してるんだねえ。唐揚げ、遠慮無しにお食べ。

「そう言えばちょっと気になったんだけど。この前のマラソン大会の時、どうしてあたし幽霊が見えたんだろう? 今まで見たことなんてなかったのに」

「それは椎名さんが、取り憑かれた状態にあったからです。普段は見えなくても何かのきっかけで波長が合えば、見えるようになることがあるんですよ」

「なるほど。さすが本職、物知りだね」

「そんなことありません。師匠から教えてもらった事の受け売りです」

照れているのか、顔が赤くなってて可愛い。

知世は大人と接する事が多かったせいで敬語で話すのがデフォルトになっているらしく、同級生なんだからため口で良いって言っても、直すのが難しいみたい。

あたし以外の人と一緒にいた所を見たことないし、たぶん人付き合いはちょっと苦手なんだと思うけど、間違いなく良い子だ。

それにしても、学校に通いながら祓い屋の仕事もしてるなんて驚きだよ。

「そういえばさ、よく小説を読んでるみたいだけど、漫画は読まないの?」

「漫画はそんなには。けど興味はあります。椎名さんは、何か読んでいるんですか?」

「暇な時はよくね。例えばほらこれ、『りぽん』って雑誌なんだけど」

あたしはスカートのポケットからスマホを取り出すと、電子書籍を開いた。

これは小学生から大人まで、幅広い層に人気の少女漫画雑誌。受け取った知世は興味津々といった様子で眺めている。

「これが電子書籍。初めて見ました」

「感心するとこそこなの⁉」

「すみません。実はスマホは持っていますけど、全然使いこなせていないんです」

まあ良いけどね。

知世は気を取り直した様子で、今度はちゃんと漫画を読んでいく。たしか最初に載っているのは映画化も決まった、大人気の恋愛漫画だったかな。

あたしは知世がどんな反応をするだろうと、わくわくしながら見守っていたのだが……。

数分後、彼女は顔を真っ赤にして、頭から湯気をたてていた。

「こ、ここここれ、主人公の女の子と同級生の男の子が、せ、せせせ接吻してますけど。こ、こんなのを子供が読んで良いんですか⁉」

「子供って、あたしら高校生でしょうが」

それに接吻って、キスのことだよね。たしかにしてるけど、キスしたのはほっぺだよ? なのに真っ赤になっちゃって、反応が面白すぎる。

「ちなみにこれ、小学生も普通に読んでるから」

「小学生でこれを⁉ す、すみません。私には無理です! 刺激が強すぎます~!」

あー、うん。そうみたいだね。まさかここまで弱いなんて思わなかったよ。

この前凛とした姿で霊を祓っていたとは思えないくらい、オロオロしている。だけどこれはこれで面白い発見。また一つ、知世のことを知れてよかったわ。

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