第30話 最終話:兄


 さて、俺は、今年も毎日毎日楽しく社畜をしている。だって、働いた給料分、俺の推しの為に使うことが出来るのだから。


「ふふふ、今日は給料日」


 今日は残業をして遅くなった俺だが、家に帰れば推しの配信を開いて、投げ銭を送りまくるという楽しみがある。


「フフフフフフ、いくらでも送ってやるさ」


「るみたん!!!!」


 俺の推しるみたん、いや、俺の推しの実の妹は今日も今日とて配信をして、ファンを虜にしている。俺はそんなるみたんにありえないほど今日も自分の財産をつぎ込みまくるのだ。


 るみたんは、去年この配信アプリの頂点に立ち、辞めると言っていた配信を続けてくれることになった。いろいろあったが、頂点に立てたことが心から良かったと思える。


 ただ、去年と変わったことといえば、俺が投げ銭やコメントを送っても一切反応が無くなってしまったこと。


「なんでだよおおおおおおお!!」


「くっっもっと送ってやる!!!!愛するるみたん!!いやうららああ!!」


 俺は、あの授賞式から一切家でも、配信でも反応してくれなくなった妹に寂しさを感じすぎて、とにかく配信があるたびに給料全てをつぎ込んでいるのだ。


 今日もいつも以上に気合を入れて、妹の反応欲しさに投げ銭を送るためのボタンを連打しているのだが、気が付くとその配信画面からはるみたんの姿は消え、背景だけが残っていた。



「ん?切り忘れか?だいじょうぶか……?」



 俺が首を傾げていると、すごい音共に妹が部屋に入って来た。



――――バアアアアーーーーン




 勢いよく入って来た妹は真っ赤な顔で俺を押し倒し、口をつまむ。



「ぎゃっっ!!うららああああ!!ななな、どどど、どうしたんだぐへっっ!!むぐぐぐぐぐぐっ!!」


「もう!!あんたバカなのおおお!!いつまで投げ銭送るつもりよ!!」


「だって麗が好きなんだもん……ってお前配信切り忘れてるぞ!!おい!!聞いてんのか!!」


 俺は配信が妹の部屋で続いたままだということを指摘しているのだが、妹は俺の上に乗ったまま俺の口を手で塞いで……。


「もう、こうしないと分からない訳?もういいから黙って!」


 ほっぺにキスをし、退場していった。


「え?えええ?どどどどど!?ききききき!!!!?」


「うら、うららあああああああうわああああああうららがあああキキキキ!?」



 俺の脳内は予測しなかった出来事に、今日も盛り上がり、ますます推しを愛していくことを誓ったのだった。




 俺はこれから、いくらでも投げてやる。


 愛する推し……いや、妹の為に。




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その投げ銭はお兄ちゃん 白咲夢彩 @mia_mia

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