素朴な疑問

次の月曜から、小夏は元気に登校してきた。

本当に、言葉の通りに、元気よく。

「おはよー、爽太くん!」

寝起き後の朝一番でも『おはよー💕』のメッセージを貰ったけど。

やっぱ、笑顔と声付きの方が、断然いい。

「おはよ。」

俺もつられて笑顔になってしまったのだが。

土曜日。

小夏を家まで送った帰り道で、ふと疑問が湧いた。

それは、あの小夏の話から考えれば、当然とも言える疑問で。

だけど、答えを知るのが怖くなる疑問でもあり。

俺はまた、悶々とした週末を過ごしたのだった。


「なぁ、小夏。」

「ん~?」

バイト終わりの帰り道。

同じくバイト終わりの小夏と待ち合わせて家まで送る途中で、俺はどうしても我慢ができずに、小夏に疑問をぶつけてみることにした。


「源氏物語ヤロウのこと、なんだけど。」

もしかしたら、また小夏は泣き出してしまうかもしれない。

少しでもそんな気配がしたら、すぐにやめるつもりだったのだが。

「源氏物語・・・・ヤロウ?」

目を丸くし、小夏は吹き出した。

「あははっ、なにソレ!」

もうすっかり吹っ切れたみたいだった。

少し安心し、俺は続けた。

「小夏は、源氏物語ヤロウと、付き合ってたんだろ?」

「うん。」

源氏物語ヤロウは、小夏に『それ以外は、俺もお前も自由だ』と言ったのだ。そして、それを忠実に実行し、他の女との間に子供を作って、小夏を捨てた。

そして、小夏も言っていた。

『わたしだって、他の男の子とも遊んでたし!』

って。


ってことは。

そーゆーことなのか?

でも、まさか。

小夏に限って、そんなこと・・・・


「その間、他の男とも、その・・・・なんだ・・・・あ~・・・・」

いざ言葉にしようとすると、生々しくなりすぎて、なかなか言い出せない。

「してないよ。」

「えっ?」

「エッチ、でしょ?」

ふふふ、と、小夏は笑った。

「彼だって、色んな女性ひと達と仲良くしてた。私だって、他の男の子と仲良くしても良かった。実際に、仲良くもしてた。じゃれ合うくらいなら、たくさんした。でも、ね。」

フッと、小夏が俺を見る。

「しなかったよ、わたし。」

真っ直ぐに、小夏は俺を見ている。

「あの人がね。『お前ももっと自由に楽しめ。』って言ったから。あの人、本当に楽しそうだったから。だからわたしも、他の男の子とも自由に仲良くしてみたら、あの人みたいに楽しめるのかなって思ったんだけど。わたしは、あの人のようには楽しめなかった。だから、エッチはしてない。・・・・信じて、くれる・・・・わっ!」

力一杯、俺は小夏を抱きしめた。


やっぱり、俺の思った通りだ。

さすが、俺の小夏!


「ちょっ・・・・痛いよ、爽太くんっ」

「あっ、わりぃっ。」

つい、力が入りすぎてしまったらしい。

慌てて離れようとする俺を、今度は小夏が抱きしめてくる。

お返しとばかりに、力一杯。

「ねぇ、爽太くん。」

「ん?」

「大好き。」

「知ってる。」

「そっか。」

顔をあげ、小夏は笑った。

俺の大好きな、あの、キラキラした夏の太陽のような笑顔で。

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