付き合う

「素敵だったねぇ・・・・わたしたちも、あんな風になりたいね、爽太くん。」

「えっ!あ、うん。」

小夏と観た映画は、いわゆる青春全開のラブ・ストーリー。

ラストはハッピーエンドで、恐らく近い将来、主人公とヒロインの二人は結婚するだろう。

ってことは、だ。


今の小夏の言葉って、逆プロポーズじゃね?!


でも俺、まだ高校生だし。

結婚とかなんて、なぁ?

いやでも、正直、嬉しくないわけが、ない。

嬉しいに決まってるじゃないか!

俺だって。

年頃の、オトコノコだもの。

結婚、てことは、だ。

おはよーのキスとか、お帰りのキスとか、おやすみのキスとか。

お帰り、と言えば。

『ご飯にする?お風呂にする?それとも・・・・わ・た・し?』

な~んて聞かれちゃったり。

おやすみ、と言えば。

あんなことやこんなことやそんなことも、フツーにしちゃったりなんか、しちゃうんだろ?

やべっ。

妄想が止まらねぇ。

鼻血出そう、マジで。


「ねぇ、爽太くん。これからどうしよっか?」

腕を組み、ピッタリと体を寄せて、小夏が下から俺の顔を覗き込んでくる。

どうする、って・・・・

この状況で?

それを、聞くか?

この、俺に?

「ねぇねぇ、爽太くん?」

ますます体をくっつけて、小夏は俺に答えを急かす。

「小夏・・・・」

「ん?」

「ごめん、俺もう、ゲンカイ・・・・」

一瞬キョトンとした顔をしたあと。

「・・・・もぅ・・・・ばかっ。」

小さく呟いて、小夏は顔を赤らめた。



残念ながら、俺は小夏の初めての男ではない。

小夏が俺の前に他の男と付き合っていたのは、小夏自身から聞いていた。

「わたし、初めては爽太くんが良かったな・・・・」

乱れた髪を整えながら、小夏がポツリとこぼした。

「爽太くん、ほんとに優しいもん。」

喜ぶところ、なんだろうか?

何も言えずに、俺は黙ってベッドの上に寝転んでいたのだが。

「爽太くんは、他の子にも、いつもこんなに優しいの?」


・・・・え?


質問の意味が理解できず、俺は体を起こして鏡越しに小夏を見た。

鏡に写る小夏は、目を伏せていて、哀しそうな、寂しそうな、そんな顔。

「今、なんて?」

「えっ?」

鏡越しに、小夏と目が合う。

「俺、小夏と付き合ってるんだけど。」

パチパチと、鏡の中の小夏は、目をしばたたかせる。

どうやら、俺の言葉では、小夏の質問の答えにはなっていないらしい。

「前はともかく、今は俺、小夏以外とはしないけど。」

鏡越しに、暫し見つめあった後。

小夏は、クルリと向きを変え、俺と正面から向き合った。

「なんで?」

掠れ声で、小夏が尋ねる。


・・・・え?


またもや俺は小夏の質問の意味がわからず、黙ったまま小夏を見つめた。


なんで?って。

小夏は、なんでそんな事を聞くんだ?

だって、俺たち、付き合ってるじゃないか。

いったい小夏は、俺に何を聞きたいんだ?

暫くの静寂の後。

小夏は、言った。


「一緒にいる間以外は、爽太くんもわたしも、自由でしょ?」


ちょうどその時。

退室時間10分前のコールが鳴った。

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