好き②

暫しの、沈黙。

自分の心音だけが聞こえてくる。

店内の雑音すら、遮断されたかのようだ。

多分、数秒だったのだろうと思うけど、えらい長く感じたその直後。


ゴンっ。


脳天に衝撃が走った。

「いてっ!」

痛みに思わず顔を上げると。

小夏は、明らかに怒っていた。

拳を強く握りしめている。

俺はどうやら、小夏に頭を殴られたらしい。

「なんでわたしがアイスやプリンやマカロンと付き合うのよっ!」

「・・・・はっ?」

「わたしを何だと思っているのっ?!」

冗談かと思いきや、小夏は本気だ。

アイスやプリンやマカロンと付き合う訳、ないだろ。

そんなことくらい、さすがに俺だって分かってるさ。


 『アイスとかプリンとかマカロンとか、付き合いたいくらい大好きなの!』


とか言う可愛いやつなら、むしろ大歓迎だ。

「いや、そっち、じゃなくて・・・・いてっ!」

脛に、強烈な痛みが走った。

小夏の蹴りを食らったのだ。

「もっと失礼じゃないっ!」

小夏の怒りが、パワーアップしている。

「いくら好きでも、動物とは付き合わないわよっ!」


・・・・天然なのか?わざとなのか?


チラリとそんなことも思ったが、小夏の怒りは、どう見ても本物だ。

「それでもなくて、さぁ・・・・」

「殺すわよ。」

突然、ドスのきいた低い声が、小夏の口から漏れた。

聞きなれない声と言葉に、俺はギョッとして小夏を見た。

怒りが頂点に達すると、人は落ち着き払って見えるらしい。

ひどく冷めた目で、小夏は俺を見ていた。

「爽太くんと付き合っているのに、他の人と付き合う訳ないじゃない。」

「そう、だよな。ごめん。」

なんだかよくわからないけど、謝ってしまう。

「もうっ。」

少しだけ機嫌を直したようで、小夏は再びパンナコッタを食べ始めた。

・・・・怒ると怖えな、小夏。

少しずつ笑顔が戻り始めた小夏にほっとしながらも、やはり俺には釈然としないものが残っていた。

「付き合ってないなら。」

パンナコッタをスプーンごと口に入れたまま、小夏が俺を見る。

「なんで、他の男とデートしてイチャついたりするんだよ?」

キョトンとした顔でスプーンを口から出し、パンナコッタを飲み込んでから、小夏は言った。


「だって、爽太くんと一緒じゃない間は、わたしの自由でしょ。」


何言ってるの?

とでも言いた気な目だ。

いや、それは俺のセリフだぞ、小夏。

これは、相当な認識の相違がありそうだ。

軽い頭痛を覚えながらも、俺は最後の望みをかけて、小夏に聞いた。

「小夏は、俺だけの彼女、なんだな?」

「うん。そうだよ。」

当たり前でしょ、と。小夏は笑った。

キラキラした、夏の太陽のような笑顔で。

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