好き①

「わぁ・・・・可愛い!」

通りがかりのペットショップで、小夏は足を止めた。

デート中にメシの事考えようがスイーツの事考えようが映画の事考えようが、そんな事は全然構わない。

他の男の事さえ考えなければ、それは浮気とは見なさない。

俺は、俺の考えを小夏に伝えた。

俺の考え、というか。

・・・・普通の事、だよな?これ。

でも、小夏はひどく驚いた顔をして暫く俺を見つめた後。

あの、ボディーブローのように俺をジワジワと攻めた、キラキラの笑顔を浮かべて言ったのだ。

「爽太くんて、すごく心が広いんだね。優しいな・・・・そーゆーとこ、大好き。」

そしてそれ以降、何かから解放されたかのように、あちこち自由に動き回るようになった。

まぁ、俺の手が届く範囲内、ではあるが。

小夏がガラスにへばりついて見ていたのは、柴犬の子犬。

「犬、好きなのか?」

「うん。大好き!」

嬉しそうに答えたあと、小夏はハッとしたように付け加えた。

「もちろん、爽太くんも大好きだよ。」

「あ、ああ。」

そこ、フォローいらないんだけど、な?

映画の前に、イタリアンの店に入った。

パスタを食ったあと、小夏はデザートにパンナコッタを食べていたのだが。

小夏は甘いものに目がない。

本当に、めちゃくちゃ幸せそうな顔をして、食う。

「小夏はほんと、甘いもの好きだよな。」

「うん!」

こっちまで溶かしてしまいそうな笑顔で、小夏は大きくうなずく。

そして。

「もちろん、爽太くんも大好きだよ!」

「・・・・うん。」

ここまでフォローをされると、なんだか逆に心配になってくる。


ちょっと待て。

もしかして、小夏の『好き』って・・・・


「なぁ、小夏。」

「ん?」

「アイス、好きか?」

「うん。」

「プリンは?」

「好き。」

「マカロンは?」

「好き。」

小夏は、ニコニコして、素直に俺の問いに答える。

「猫は?」

「好き。」

「ハリネズミは?」

「好き。」

「カピバラは?」

「好き。」

一呼吸置いて、俺は尋ねた。

「俺は?」

「好き!」


やはり・・・・


複雑な想いで、俺は小夏を見た。

俺の時だけ、多少力強い答え方だったのが、せめてもの救いだが。


食い物と動物と俺は、同列かいっ!


ちなみに、と。

傷口に塩を塗り込む覚悟で、俺は続けた。

「タカシは?」

「好き。」

「ユウイチは?」

「好き。」

「神田先輩は?」

「好き。」


・・・・マジか。


なんとなく、見たり聞いたりした男のことを聞いてみたのだが。

まさかの、全員『好き』とは。

ゴンっ、と派手な音を立て、俺は額をテーブルに預けた。

額のちょっとした痛みが、少しだけ、胸の痛みを和らげてくれた気がする。


「・・・・爽太くん?」

心配そうな、小夏の声。

でも、俺は小夏の顔を見る事ができないまま、最後の質問をした。

小夏の答え次第では、このまま別れるつもりで。

「お前は、全員と付き合っているのか、小夏。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る