いきなり難関

「爽太くん、これ観たいって言ってたよね?今日のチケット、取っておいたよ。」

会うなり小夏は、スマホ画面を俺に見せてきた。

確かに、俺が観たかった映画だ。

でも、小夏に話してたっけ?

「まだ時間あるから、先に何か食べようよー。」

可愛らしくおねだりするように、小夏は俺の腕に抱きついてきた。

「そうだな。じゃあ、メシ代は俺が出すよ。なに食いたい?」

デレ顔になってるだろうなぁ、とは思うけど。

仕方ないじゃないか、この状況じゃ。

年頃の、オトコノコだもの。

今日の小夏は、ヒラヒラするロンスカだ。

歩く度にチラ見えする生足が、たまらん!

チラリズムは、男のロマンと言っても、過言ではないだろう。

俺は断然、露出少なめのチラリズム推奨派だ。

でも。

タカシとイチャついてた時、小夏はこんな格好してなかった。

結構露出度高めの、エロい感じ。

だから、最初は別人かと思ったくらいだ。


・・・・もしかして、相手によって変えてたりするのだろうか。

いや、『相手』ってなんだよ。

小夏は俺の彼女だ。

『相手』は俺しかいないじゃないか!


「・・・・がいいかなぁ。でも、パスタも捨てがたいんだよねぇ。・・・・って、爽太くん、聞いてる?」

「えっ?!」

気づくと、小夏がむくれ顔で俺を睨んでいる。

「あ・・・・えっと、パスタいいよな!」

「む~っ。」

ごまかしたが、時既に遅し。

「何、考えてたのよ。」

「え、いや・・・・」

「浮気してるの、爽太くんの方じゃないっ!」

パッと俺の腕を離した小夏は、怒りながらその場で泣き出した。

「ひどいよ、爽太くん・・・・」

人の行き交う繁華街。

泣いてる女の子とオロオロしている男。

端から見れば、悪いのはどう見ても俺だろうが。


でも、待ってくれ。

俺か?

俺が悪いのか?!

これが『浮気』なのか?!

『浮気』の定義って、こんなだったか?!


うそだろーっ!


街中で叫びたくなりそうな衝動をなんとか押さえて、とりあえず俺は小夏を落ち着かせることに神経を注ぐ。

「わたしは爽太くんの事だけしか、考えてないのに・・・・」

大粒の涙を流す小夏の頭を撫でながら、俺は言った。

「いや、さっき一瞬、俺じゃなくてメシの事考えてただろ?」

涙に濡れた瞳が大きく見開かれ、暫し固まる。

「・・・・うん。」

「それは、浮気か?」

違うだろ?な?

だから俺のも、浮気なんかじゃないんだよ。

という流れのはずが。

「そうだね・・・・ごめんね、爽太くん。」

謝られてしまった俺は、いったいどうすればいいと言うのか。

「わたしのこと、嫌いになった?」

ウルウルとした瞳で、好きな女にこんなことを言われ、それでも怒れる男なんて、存在する訳がない。

「そんな訳、無いだろ。」

すると、小夏は涙目のまま笑顔になって。

「爽太くん、大好き!」

そのままギュッと、俺に抱きついてきた。

もちろん、俺だって小夏を抱きしめたけど。

いやいや。

デート中にメシの事考えたからって、嫌いになる男なんかいないし。

そもそものお前の『浮気』の定義がおかしいからっ!

なんて。

言える雰囲気ではなく。

もちろん、『俺以外の男とデートなんかするな!』などとビシッと言うなど、もっての他で。

俺はただひたすらに、今この瞬間の甘い余韻に浸っていたのだった。

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