第121話 キキョウ
「……」
(聞こえるか? 聞こえたなら座ってみてくれ)
瞳を閉じたまま頭の中で指示を出すと、ハイドロスは舐めるのをやめてその場に座り込む。
仲間にした魔物と念話が可能なことは知識としてあったのでダメ元でやってみたのだが、どうやら成功したようだ。しかし、それで終わりではなく次の段階へ。
《感覚共有!》
その名の通り、使用者と対象の感覚を共有できる
(視界は良好、遠耳も利く、嗅覚は……血の匂いが凄そうだから切っておこう)
取り敢えず視覚と聴覚のみ共有し、ハイドロスには戦場へ赴いてもらい状況確認を。
……先ず、例の魔光によって戦場は二極化されており、抉れた地面を辿っていくとそこにはあの九尾の狐が。そしてよく見ると、ごく少数の者が九尾の狐に挑んでいるのが分かる……が、とても苦戦している模様。
このままでは戦力だけを失う羽目になる……だがそうはさせまいと、ハイドロスを九尾の狐の元へ向かわせる。すると向かう最中……
「お〜い! 治癒士を連れてきたぞ〜!」
トサックが治癒士を連れて戻ってきたようだ。意識がないと思われたらマズいので、一先ず感覚共有を解除して「ありがとうございます」と礼を述べるつつ意識があることをアピール。
それからすぐ、女治癒士によって治癒が開始されるが、女治癒士には事前にある注文をしておいた。それは「筋繊維よりも魔力回路の治癒を優先してほしい」というもの。理由は、魔力さえ練れるようになれば自身の治癒魔法で回復できるからだ。
その後、女治癒士には「体力を少しでも回復させたいので寝ます」と伝えて寝たふりをし、再びハイドロスと感覚共有を……ーー
(ーーおぉ、大分進んでる……)
視界が切り替わると、目的地までかなり近づいており、九尾の狐の大きさがより際立っていた。とはいえ、もう少し時間が掛かりそうなので、今の内にハイドロスの名付け及びスキルや能力の把握をしておこうかと。
(毛色は濃い青だけど魂は桔梗色だったよな……よしっ、今からキミの名はキキョウだ! 改めてよろしく!)
ハイドロスの名前が『キキョウ』に決定した瞬間、キキョウの魔力量が増加し、額には【尾を飲み込む蛇】の紋様が浮かび上がる。
続けて、鑑定士スキル『技能鑑定』でキキョウのスキルと能力を確認。
【キキョウ:スキル『暗視』『隠密』・能力『影潜り』『水球弾』『流水鞭』『再魂』『円環の刻(new!)』】
……なるほど、名称だけでもどのようなものなのか見当が付くな。だけど、最後の『円環の刻』は何故追加されたのだろうか? そう考え始めた直後、追加された理由を急に閃く。あの額の紋様によるものだと。
(ーーっと、もう着いたのか……予想より速いな)
そうこうしている間に目的地へ到着した……が、眼前にはうつ伏せに倒れたセリーヌと右前脚を振り下ろす九尾の狐の姿がーー
(ーーセリーヌ危ないっ!)
即座に『水球弾』をキキョウに撃たせ、九尾の狐にダメージを与えてヘイトを自身に向けさせる。すると狙い通り、キキョウを睨みつける九尾の狐。
「ーー!? な、仲間割れ……!?」
セリーヌは驚きつつも立ち上がり、態勢を整えるために距離を取る。そして、こちらを覗くセリーヌとキキョウ越しに目が合って……
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