第120話 俺様
「いやだ……やっぱり諦めたくない!」
身体も魔力も動かせないため一度は身を委ねたものの、目を見開き、再度受け身を取ろうと試みる。しかし、やはり身体は動かず、未だに魔力も練ることができなかった。
もしこのまま頭から地面に落ちるようなら死にはしなくとも大怪我は必至。普段は魔力で全身を覆っているのが今は皆無なので俺も例外ではない。
幾ら『ニカナ』の影響で肉体を強化されていても人の身では強度に限界がある。だからこそどうにかしたかったのだが、結局どうすることもできず……
「ぐはっーー」
落下時、頭と背中に痛みが走り、肺がやられたのか呼吸がしづらい。
「はぁはぁ……」
(……く、苦しい……けど、あまり痛みはない……それに、この感触は……?)
頭と背中に痛みはあれど、そこ以外の身体は何か硬いが柔らかい? もので守られているように感じ、すぐ後ろからは声が聞こえてきた。
「ぶはぁーっ!! や、やったぜ……なんとか間に合った……」
どうやら間一髪のところをこの声の主に助けられたようだ。だが今はまだ身体を動かせる状態ではないので姿を見ることはできない……が、先程の低い声に聞き覚えがあったためその名を口にする。
「はぁはぁ……あ、ありがとうございます……トサックさん……」
「おう! なんてったって俺様だからな! ……あっ、これで北門の借りはチャラってことで!」
俺を守るためクッション役になってくれたのはCランカーのトサックであった。
その後の話では、北門で負傷した後に一旦冒険者ギルドへ戻って治療してもらい、完治後すぐに東門へ向かうようシャカから指示があったため急行していたところ、丁度俺が吹き飛ばされていたので助けに入った、とのこと。
「なぁ、動けそうか……?」
「……すみません、無理のようです……呼吸は落ち着きましたが、全身の筋繊維と魔力回路がズタボロでして……」
「ま、マジかよ……じゃ、じゃあよ! もし次あんなヤバい攻撃されたら、一巻の終わりってことじゃねぇか!?」
「ーーッ!! い、いえ……まだ皆さんいらっしゃいますから……」
「だ、だってよぉ……お前以外に防げるヤツなんているわけねぇし……」
……そう、トサックの言っていることは正しい。そのことは俺も分かっていた。だがそれは自身を過大評価しているわけではなく、客観的に見たうえでの厳然たる事実。たとえ元Sランカーのシャカであっても防ぐことは到底不可能だ。とはいえ、あれほどの魔光を放つには相当な魔力を溜める必要がある。即ち、次弾にはまだ時間が掛かるということ。
その間にあの九尾の狐を倒したいところだが、俺が動けるようになるには治癒してもらうことが必須。
そのことをトサックに伝えた途端「分かった! 今すぐ連れてくるからちょっと待ってろ!」と俺を雑に降ろして戦場へ駆けていった……ーー
「ーーくそっ、みんな必死に戦っているのに……!」
街の外からは、悲鳴や断末魔が絶え間なく上がっており、動けずにいる自分が許せず、遣る瀬ない気持ちにさせられた。だがそんな時、俺の影からハイドロスが出てきて、心配そうに俺の頬を舐める。
「ありがとな、慰めてくれて……あぁ、そうだ……あれなら……!」
頬を舐められている最中、今の俺にできることを思いつく。そして、早速実行に移すため、再び瞳を閉じた……
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