第119話 九色の魔光


「よし、このままいけば守り切れそうだ」


 現状、数では魔物に劣るものの戦力でいえばこちらが勝っている。その理由は腕利きの冒険者や傭兵、それに加えて精鋭揃いの私兵団がいるからだ。

 俺達が到着した時点では闇夜の影響で苦戦を強いられていたが、それも『天照』によって解消され、今では破竹の勢いで魔物の数を減らしている。そのうえ、数少ない脅威ランクAの魔物は俺が優先して倒したため既に1匹も残ってはいない。とはいえ、肝心の『統率者』がどの魔物なのかは未だ分かっておらず、予断を許さない状況であることに変わりはない。ただそれでも「もしや、今まで倒した中に統率者がいたのでは……?」と淡い期待を抱いた、その時……



「ーー!? なんだこの膨大な魔力は……!?」


 戦場の中心から東に外れた地点に1つの膨大で強大すぎる魔力を感知。敵味方強者弱者関係なく全ての者がその魔力に気づき、そして恐怖に慄いた。

 早急に土魔法の1つ『地柱ちばしら』で地面を隆起させて土柱を造り、その上から望遠スキル『千里眼』で膨大な魔力の主を覗く。


「あれは……金色の狐? 尻尾が9本もあるうえに大きさはヒュドラ並み……奴は一体なんだ……?」


 膨大な魔力の主は見たことも聞いたこともない狐系魔獣であり、当然だが魔物図鑑にも載ってなどいない。されど、狐も犬科に属するので最低でも『限定統率』さえ有していれば今回の『統率者』となり得る……いや、奴は間違いなく統率系最上位である『完全統率』を有している。そう確信したのは『直感』が発動したためだが、息つく暇もなく再度『直感』が発動し、咄嗟に大声で叫ぶーー



「ーードォーッジ!!」


 以前も一度叫んだが「ドッジ」という言葉は冒険者用語で「避けろ」の意味を持つ。だがこの言葉は傭兵や騎士などにも深く浸透しているため多分に通じるはず。そう願って叫んだ後は土柱から飛び降り、着地と同時に両手を前に突き出す。


「ここで止める!」


 九尾の狐から突如放たれた九色の魔光。ソレは地面を抉り、触れる全てを消滅させながら街の方へ。

 そうはさせまいと、俺は正面から受け止める……が、完全に不意を突かれたため魔法を使う余裕もなく、文字通り素手で受け止めるしかなかった。

 間一髪、四肢に魔力を集められたとはいえ、規格外の威力によって徐々に押されていき……



「な、なんて威力だ……! こんなのが直撃したら間違いなく街は滅んでしまう……だからこそ、俺がなんとかしないと! うっ、うおぉぉぉぉぉーっ!!」


 気合いを入れて土柱を背に奮闘するも、押され続けた末に土柱は崩れてしまい、遂には東門の手前にまで戻されてしまう。更には魔光に触れる両手は酸に浸けたかのように醜く爛れ、痛みと共に恐れも感じずにはいられなかった。しかし、それでも立てた誓いを思い出し、渾身の力とチカラを込めて魔光を上空へと受け流す。そして、魔光を受け流した際、衝撃だけは受け流し切れずに街の中へと吹き飛ばされるが、その最中に安堵の言葉を呟く。


「よかった……街を、みんなを守れて……」


 ……その後、魔法で着地を試みるが上手く魔力が練れず、どうにか受け身を取ろうとするも身体は全く動いてくれない。


「くっ……」

(このままでは頭から落ちてしまう……だけど……)


 身の危険を感じつつも、ただ身を委ねるしかないと瞳を閉じる……

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