第118話 仲間にしますか?
「うーん、あのスキルは厄介ね……」
イズナの言う通り、ハイドロスが持つ特殊能力『再魂』は厄介極まりない。とはいえ、あの能力は「魂が無事であれば1度だけ完全再生できる」というものなので、再度倒せばいいだけの話だ。
要は、実力が拮抗していれば非常に厄介だが、掛け離れている場合はその限りではないということ。それに加え、再生後は漆黒の能力を喪失しているらしく、討伐難易度は格段に下がる。
「……あっ、こっちに気づいたみたい!」
「ですね……ん? 何故ひっくり返ったんだ? もしかして罠か……?」
俺達の存在に気づいてすぐ、腹部を晒して高く澄んだ鳴き声を上げるハイドロス。その姿はまるで甘える仔犬のよう。しかし、何故そんなことをしているのか分からず、俺が左手に魔力を集め出すと、奴の甘えた鳴き声は必死な叫び声に変わる。
余りにも必死すぎて倒すのを躊躇していたら「ねぇ、アレって降参してるんじゃない?」とイズナが耳打ちを。
突然耳元で囁かれたので咄嗟に距離を取ると、イズナは不機嫌そうに「行け」とハイドロスを親指で差す。
俺に非があるため拒否できず、仕方なしにハイドロスの元へ向かい、近くで様子を見ることにした。すると……
【ハイドロスは仲間になりたそうな目で貴方を見ている……】
ーー!? な、なんだ今の声は……もしや、頭の中から聞こえている……!?
【ハイドロスを仲間にしますか? 「Yes」or「No」どちらか選んでください】
えっ!? はっ、ハイドロスを仲間に!? それができれば心強いが、本当にそんなことが可能なのか……!? なんにせよ、命の危険はなさそうなので言うだけ言ってみよう……
「……いえす、でお願いします」
【……承認しました。5秒後にハイドロスが仲間に加わります。よかったですね】
「あ、ありがとうございます……?」
その声の主は恐らく女性かと思われるが、声に緩急や抑揚がないことから『人ならざる者』かもしれない。
そんなことを考えている間に5秒が経ち、ハイドロスから邪気が消えたのを感じた。すると当のハイドロスは俺のお尻の匂いを嗅ぎ始め、それが済むと正面に移動し、舌を出しながら尻尾を勢いよく振り回す。
その行動はまるで命令を待っているかのようで、試しに「魔物を倒してこい!」と命令してみたところ嬉々として駆け出していき、本当に魔物を倒し始めた……が、3匹目を倒した直後、味方から攻撃されかけたので慌てて呼び戻して俺の影に入ってもらった。
「へぇ、そんなこともできるのね……というか、相変わらず凄すぎてもう笑うしかないわw……って、あれ? アナタの瞳って黄色だったっけ……?」
イズナにジッと見つめられた後、瞳の色が茶色ではなく黄色であると指摘された。どうやらいつの間にかまた変化していたようだ。それも、向日葵のような鮮明な黄色に。
「まぁ、似合ってるし別に気にしなくてもいいんじゃない? 少なくとも私はその……す、好きだし……」
イズナの頬が赤く染まるのを目にし、照れるくらい黄色が好きなんだなぁ……と温かい目で見守っていると、イズナの言う「みんな」が合流しにきた。
その中にはメイリンや側近の男三人衆もおり、皆傷だらけだが無事であることを喜び合う。そして、程なくすると再び戦場へ。
街や人々を必ず守ると、皆で立てた誓いを心に秘めて……
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