第122話 エルーゴ


「セリーヌ! 大丈夫か!?」


 キキョウ越しに俺とセリーヌが目を合わせている最中、猛烈な勢いでセリーヌに駆け寄るロラン。もうダメかと思っていたからなのか、勢いそのままにセリーヌを強く抱き締めた。

 その光景を見て再び胸を痛めていると、見兼ねた1人の冒険者がロランに向けて怒声を上げる。


「馬鹿野郎っ! こんな時にイチャついてんじゃねぇ! 死にてぇのか!」


 あまりの迫力に思わず振り向くと、そこには大戦斧を持った金髪の男戦士が。そして周囲には3人の仲間がおり、皆がロランを睨みつけている。

 慌ててセリーヌから離れるロランを余所に、九尾の狐の動向に警戒しつつ男戦士とその仲間のことをふと思い出す……ーー



 ーーあの4人は確か、Bランカーのみで構成された『エルーゴ』というBランクパーティで、リーダーを務めているのはシャカとセイナの従兄弟であり斧術を得意とする戦士『クアトロ』だ。

 それから、青髪で男弓士の『カミュ』と茶髪で女魔導士の『ネマ』に紺髪で女治癒士の『ファラ』と、非常にバランスの良いパーティ編成であることを覚えている。

 そういえば、あの4人は俺を蔑んだり見下したりすることは一度もなく、寧ろ会う度に声を掛けられていた気が。

 今思えば、シャカやセイナと同様に俺のことを気に掛けてくれていたのかもしれない。もしそうなら、この脅威を退けた後にでも礼を伝えたいと思う。だがそのためにはあの魔獣を倒さなければならない。しかし……



(もう回復してるのか……それに……)


 九尾の狐に目を向けると、先程のダメージは消え、冷静な雰囲気から既にキキョウへ向けたヘイトもなくなっているのが分かる。

 そして、その情報だけでも奴がとても賢く厄介な魔獣であることが理解でき、今まで遭遇したどの生物よりも恐ろしい。


(ーーだけど! それでも倒さなければ街は守れない! だから、キキョウ頼む!)


 キキョウを初め各自攻めるものの、巨躯の割に動きが機敏なため攻撃が一切当たらず。

 全体を見ながら『流水鞭』による先読み打ちを試みるも躱されてしまい、逆に様々な属性で反撃される始末。

 更にはキキョウを警戒して皆の注意力が散漫となり、余計な攻撃を喰らうこともしばしば。

 その結果、疲弊やダメージ、決め手の無さから攻めあぐねてしまう。だがその時……



「俺に任せろ! シャドウセイバー!」


 ミカゲは自身の影から数多の黒剣を生み出し、九尾の狐に向けて速射。

 突然の援軍による攻撃に不意を突かれ、九尾の狐は後方に大きく飛んで避ける……が、それよりこちらの方にも黒剣が数本飛んできたので咄嗟に屈んで回避する羽目に。

 完全に不意を突かれた俺は驚き、つい声を荒げてミカゲに文句を。


「ちょっ、ミカゲ! 撃つ前に一言くらいくれって!」


 その直後、辺りは静寂と化す。

 それはそうだ。魔物が人語を話すなんて神話の中だけの話だからな。

 これには九尾の狐も驚かざるを得なかったらしく、様子見に徹している。すると、我に返ったミカゲがキキョウを指差して口を開く。


「もしかして……お前っ、キュロスか!?」


「あぁ……といっても、感覚を共有してるんだ。俺自身は今、街の中で治癒してもらってるよ」


「ははは……もうなんでもアリだな、お前……」


 ミカゲが呆気に取られているなか、遅れてシリウスが到着し、事態が飲み込めずに首を傾げていた……

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