第114話 聖なる光花
「ははっ、すっげぇなぁキュロスのやつ」
「は、はい……し、しかし、これからどうなさるおつもりか……決定打がなければ先に体力が尽きるのはこちら。それに、奴にはまだ奥の手が残されて……」
……という2人の会話が耳に入る。名乗った時とは別人かと疑うほどにシリウスが饒舌すぎて、気づいたら俺の口角は上がっていた。ただ、シリウスの言葉は尤もであり、事実その奥の手を奴は繰り出そうとしている。
「スゥゥゥーッ……」
暗闇の先から微かに聞こえる呼吸音と、それに併せて膨らむ魔力。たとえ見えずとも、奴が何をしようとしているのかはすぐに理解できた。
「奴の魔力が上がっただと!? まっ、不味い! それをさせてはいけません! ……い、いや、手遅れだ……もう間に合わなーー」
「ーー待て! キュロスの手から何か伸びてるぞ! あれは……青い糸……?」
闇夜に光る一本の青い糸。それは、俺の左拳からアヌビシオの額へと一直線に伸びており、先程の一撃と同時に繋げていたのだ。
魔力反応からして奴との距離はおよそ50m。これほど離れていても『呪縛の咆哮』からは逃れられない。とはいえ、すぐに『禊祓』で解呪すれば良いだけ……だが、その時点で圧勝ではなくなってしまう。ならば……
「その前に倒すのみ!」
左拳を前方に突き出し、魔法を放つために手を開く。
「聖なる光花よ、華々しく咲き誇れ!
左手から離れた青い糸は巻き取られるようにアヌビシオの方へ向かい、額に到達した瞬間、青白色に輝く大輪の花が咲いて辺りを煌々と照らす。そして、纏っていた漆黒は消え、アヌビシオが地に伏せると間もなくして花は散り、辺りはまた暗闇へと戻る。
この魔法は神聖魔法と光魔法を合わせた『聖光』の上位にあたるもので、たとえ脅威ランクAの魔物でも耐えることは不可能。但し、闇に属する者やアンデッド系にしか効果はないので留意せねばならない。
「……ふぅ、これでよし!」
脳内で『聖華』の特性を復唱しつつ、アヌビシオの亡骸を黒箱に収納。額は多少陥没していたがそれ以外は傷一つ見当たらなかった。つまり、ミカゲとシリウスからのダメージも無かったということになる。その事実が判明して「もし東門にもアヌビシオがいる場合、セリーヌでも厳しいのでは?」と不意に思い呟く。すると、後方からミカゲ達が駆けてくるなり声を上げる。
「お前すっげぇなぁ! さっきのって神聖魔法だろ? いつの間に覚えたんだ?」
そんなミカゲの問い掛けに対し「ひ、秘密だ……」とはぐらかすと、いきなりシリウスから「キュロス殿! 是非、我が兵団に!」と勧誘を受けることに。
当然、勧誘は断ったわけだが、それでも兵団に入隊させようと熱心に語り掛けてくる。高収入とかやり甲斐とか名誉とか……正直、惹かれる部分はあるが、自由度は今より下がるのでやはり却下だ。
「有難い話ではありますが遠慮しときます……それより、早く東門の応援に向かいましょう! 恐らく劣勢だと思いますし」
少し強引ではあったが本来やるべきことに目を向けさせると、2人は真剣な表情で頷き、すぐさま東門へ向かうこととなった。
「ーーっと、その前に……エリア・ハイヒール!」
俺を中心に範囲系治癒魔法を展開し、全員の身体を一度に回復させてから向かい出す。シリウスの熱い視線を背中に浴びながら……
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