第113話 夜空に響き渡る声


「頼む、上手くいっててくれ……!」


 放った光魔法が何かに被弾した後、願うようにそこへ向かって状況確認に入る。すると、暗くて見づらいが少し先に何者かがうつ伏せで倒れていることに気づく。

 その倒れている何者かは俺のよく知る人物であり、動悸を速めつつも急いで駆け寄った。


「み、ミカゲ……まさか、お前に当たって……」


 動悸は益々速くなり、額には冷たい汗が浮き出ると、咄嗟にミカゲの背中を揺らして声を掛ける。


「ミカゲ! おいミカゲ! ……ごめん、俺がお前のこと……」


 両手の拳を握り締め、己がしたことを悔やむ……がその時、ピクリとも動かなかったミカゲが突然動き出し、徐ろに起き上がって口を開く。


「おっ、キュロスじゃねぇか! ……あん? どうしたんだ? そんな間抜けな顔してよぉ」


 本当に突然すぎて思考が追いつかず、茫然としたままの俺。それでもミカゲは自分が単に気を失っていたという事実とその経緯を話し出した。

 ……どうやら俺が放った『閃華せんか』を避けたはいいものの、疲労から足が縺れた挙句、地面に頭を強打したことで気絶してしまったーー


「ーーってわけなんだよ……あっ、このことはセリーヌにはぜってぇバラすなよ!? カッコ悪すぎて幻滅されちまうからな!」


 ミカゲの話を聞いている内に正気を取り戻した俺は、笑いながら立ち上がって「ははっ、考えとく」と返答。それを聞いたミカゲは「マジで頼むよぉ」と哀願する。

 そんな平常運転な俺達ではあったが、次の瞬間には一変して張り詰めた空気に。


「……!! ちっ、アイツまだ生きてやがったのか!」


「……だな。といっても、あれで倒せるとはハナから思ってないけどな」


 俺とミカゲが見据える先には、金色に輝く瞳と内臓に響くような低い唸り声が。そしてソイツはゆっくりと確実に近づいてきており、俺達は即座に戦闘態勢を取る。

 ……それから少し経つと右側から金属音が聞こえ、透かさず右を向くと、息を切らしながら駆けてくる例の団長の姿があった。


「はぁはぁ……み、ミカゲ殿、ご無事でしたか! ……おや? そちらの方は……?」


「あぁ、コイツはキュロスといってーー」


 ミカゲが俺のことを簡潔に説明すると、団長は険しい表情を見せて「私はシリウスと申します。よろしく」と淡々と名乗り、すぐに視線を俺からミカゲに移す。

 その行動を見て、俺がFランカーと知って関心を失くしたのだと瞬時に理解できた。まぁ、いつものことだからな……



「……おっと、アイツが来たようだ。キュロス、いけるか?」


 ミカゲの言葉を耳にしたシリウスは「何を血迷ったことを! 我々でも手に余るというのにFランクがどうこうできるはずがない!」と声を荒げる。しかし、それでも俺は「あぁ、任せろ!」そう答えて前へと進む。


「よすんだ! 君では奴にーー」


「ーーうるせぇ! ……黙って見てろ」


「うぐっ……」


 後方からそんなやり取りが聞こえ、思わず顔が緩む。それは、こんな俺を信じ、頼ってくれる仲間がいるからだ。そして、その期待に応えるためにも圧勝することを誓う。


「ふぅ……よしっ、秒で倒す!」


 決意を口にした直後に全速力で駆け出し、アヌビシオに透過する間も与えず、渾身の左ストレートを眉間に放つ!



「ーーんなぁぁぁーっ!?」


 吹き飛ぶアヌビシオを目の当たりにし、驚くシリウスの声が夜空に響き渡る……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る