第112話 Dodge!!


「くっ、どうやら考えてる暇はなさそうだ……」


 迫りくる魔物は既に臨戦態勢に入っており、全員で俺達を襲えるよう横に広がり始める。

 たとえ数が少ないとはいえ、これでは単体攻撃を主とするギンでは時間を要するだろう……と、考えてる暇はないと言った側からそんなことを考えてしまう。なので、その考えた分の時間を取り戻そうと、準備していた左手から適正範囲かつ高威力の魔法を放つ。


壊炎かいえん!」


 業火の如く、掌から高出力の炎が筒状に放出されると、25匹の魔物は避ける間もなく瞬時に焼き尽くされた。

 その余りの火力に俺とギンは思わず足を留め、ムツコに至っては驚き声を上げる。


「……なっ、なんなのです!? 魔物さん達が一瞬で真っ黒けっけになったですよ!?」


「あ、あぁ……みたいだね……」


「クゥン……」


 これは明らかにオーバーキル……あの『破光』と同じく人に放ったらいけない類いのもの……うん、絶対に気をつけよう。

 そう心に誓った後、このまま放置してはおけず、黒炭状態となった魔物達を全て黒箱の中へ収納することにした。ゔっ、あとで『リペア』を使ってあげよう……

 ……寸刻で収納を済ませると、一言だけムツコに伝えてから南門へ向かうことに。


「ムツコさん……恐らくですが、この先も魔物は流れてくると思います。気を引き締めて行きましょう」


「はいです! ギンもよろしくです!」


「ウォンッ!」


 ギンの返事を出発の合図とし、再び俺達は先へ進む。仲間の無事を願いながら……ーー




 ーー……再び出発してから今に至るまでの間、予想通り魔物は流れてきた……が、2度目以降は群れではなく完全に疎らであったため、俺とギンで分担討伐ができ、思いの外手間取らずに先へ進むことができた。しかし、南門に着く頃にはすっかり夜となっており……



「……こ、これはどういうことだ……?」


 目視では現状把握が困難と判断し、魔力探知にて把握したところ、敵味方どちらの反応数もおかしいことに気づいた。それは、北門より多いはずの反応数が目を疑うほど少なく、数値にして味方32・敵65とあり得ない数だということ。

 そんな不可解な現状を知り、透かさず駆け出す俺。どうしても目視で確認しなければと思い立ったからだ。

 ……その後も足元を注視しながら見て回る内に、ある結論に至る。だが……



「人と魔物、どちらの死体も少なすぎる……つまり、殆どが東門に流れたってことだ……でも、何故そんなことに……?」


 ……と、新たな謎を増やす結果に。

 そのため、東門は一旦後回しにし、先ずはこの南門を守り抜く方向にシフト。するとタイミング良く、南側から接近する大きな魔力反応が3つ。それも2人が1匹に追われる形で。

 取り急ぎムツコには「南門前に魔物がいるのでそちらをお願いします!」と頼むことでこの場から離れてもらった。そうすることで南門を守れるうえに、これから始まる戦いに巻き込まなくて済むからだ。まさに一石二鳥。

 その後、東の方へ進むムツコ達を見送ると、即座に南側を見据え、光魔法を放つと同時に声を上げる。


「ドォーッジ!!」


 前方に向けた左手から、暗闇を照らしながら放出される一筋の光。その光が一直線に飛んでいくと、突然光は華麗に弾け、その直後に叫び声が響く。


「ーーーーッッ!?」


 響くその声は、どこか聞き覚えのある声であった……

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