第111話 南門の異変


「あれは……魔物か!?」


 足を留めて前方を注視すると、真っ直ぐこちらに向かってくる魔物達の姿が見えた。

 その魔物達というのがヘルハウンド3匹にダイヤウルフ6匹の計9匹で、明らかに俺達を狙ってきているのが分かる。

 だがそれより気掛かりなのが、奴らが向かってきた方角だ。どう考えても南から来ており、それは南門を守る冒険者達が取り零したということに他ならない。


「まさか、ミカゲ達に何かあったのか……!?」


「えぇっ!? Aランカーがいるのにです!? ……なら、これはホントに急がないとです!」


「そうですね……急ぎましょう!」


 ムツコとの会話を終えてすぐ、左手を前方へ向けて魔法を唱える。


「道を空けてもらう! 雷槍!」


 雷で象られた9本の槍が魔物達に向かって飛んでいき、次々と魔物に直撃しては倒していく。

 そして、あとは最後尾にいるヘルハウンドを倒せば終わり……のはずが、既の所で左に跳んで躱されてしまう。


「なっ!? 前にいた奴らを見て学習した!? ……それなら次は!」


 気を取り直し、次なる魔法を唱えようと右手をヘルハウンドに向ける。するとその直後、ギンが飛び出してヘルハウンドの喉元を鋭い爪で斬り裂いた。まさに電光石火。


「流石は準神獣だ……益々興味が湧いたよ」


 そんな具合にギンへの探究心が高まりつつも、倒した魔物達を手早く黒箱の中へ収納して先を急ぐことに。

 空も夜に向けて暗くなっており、このまま夜の戦闘になれば今以上に苦しい闘いとなるので尚更急がねばならないのだ。

 そのことは魔物に詳しいムツコも理解しているようで、口に出さずとも目を合わせたら頷いてくれた。それなら本気を出そうと、屈伸してから魔法を呟く。


「纏雷……疾駆……行きます!」


 2つのバフが掛かった状態で再び駆け出すと、あっという間にムツコ達を置き去りに……とはならず、一定の距離を保ちながら俺の後ろを付いてきていた。やはりギンの脚力は凄いな。


「ふふっ……ギン、嬉しいです?」


「ウォンッ!」


 ……といったやり取りが耳に入ったので、軽く後ろを振り向くと、笑みとヨダレを振り撒きながら駆けているギンの姿が目に映る。

 きっと、これまでに速さで競える相手がいなかったのだろう……俺に出逢うまでは。そう思ったら、なんだか俺まで嬉しくなった。


「ははっ、あんなに嬉しそうに……んっ!? この気配は……!」


 1km以上先になるが複数の気配を感知し、この気配の種類からして魔物に違いない。そうなるとこれで2度目の取り零しとなるわけだが、南門で一体何が起きているのだろうか。


「うーん、留まる時間が惜しいな……よし、魔物はこのまま倒すとしよう」


 即座に魔法が放てるよう左手に魔力を集めつつ魔物との距離を縮めると、具体的な匹数まで感じ取れるようになり、どうやら25匹の魔物が迫ってきている模様。魔物自体は少数だが、1度目より増えていることに疑問を持つと嫌な想像ばかりが頭に浮かぶ。


「もしかして、戦場から流れているのか……? くそっ、この分じゃ東門にも魔物が流れ込んで……はっ! まさか、北門から街の中へ……!? なぁミカゲ、一体どうしたんだ……?」

 

 急激な不安と焦燥に襲われている間に、魔物との距離は更に縮まっており……

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