第110話 街の名は……
「「いってらっしゃいっス!」」
「ふふっ、どうかお気をつけて」
明るい雰囲気のなか見送られ、俺・ムツコ・ギンの2人と1匹は、西門を後にして南門へ向かい始めた。
本音を言えば、連戦に継ぐ連戦のため少しでも身体を休めたかったところだが、劣勢と聞いたからには諦めるしかないだろう。
それにしても、まさかミカゲや団長でもアヌビシオに勝つことができないとは……やはり、そういうことなのか……?
「やっぱり神聖魔法じゃないと……」
思わず呟くと、突然ムツコが驚く。
「えぇっ!? キュロス様ってもしかして、神聖魔法が使えるですか!?」
キラキラと瞳を輝かせて好奇心剥き出しのムツコ。その好奇心に負けてしまい、仕方なく正直に答えることに。
「は、はい……あっ、でも内密にお願いします……面倒事になりそうなので……」
「はいです! 内密にするです! といっても、どのみち知られることになるですけど」
ムツコの言葉に「あぁっ!」と気づかされる。それはそうだ。もしアヌビシオを倒せる方法が神聖魔法しかないとすれば、現状を鑑みると奴を倒せるのは俺しかいないのだから。
つまり、大勢の敵味方に見られながら神聖魔法を使わなければならないのだ……はぁ……
「た、ため息……って、そこまで知られるのが嫌です!? うーん、寧ろ誇らしいと思うですけど……」
「ははは……」
まぁ、価値観は人それぞれということだろう。別に俺は実力を知らしめたいわけでも優位に立ちたいわけでもない。逆に、悪目立ちするのではないかと心配してしまう性分なのだ。面倒なことにな。
俺の苦笑いで何かを察したのか、ムツコは露骨に話題を変える。
「そ、そういえば、この街の名前を知ってるです?」
「……え?」
話題の変更先が選りにも選ってこの街の名称とは……一応、ムツコよりも長く住んでいるのだが……取り敢えずは真面目に答えないと失礼……なのか? 質問の意図は全く分からないが答えておこうかな……
「は、はい、分かります……『ホワイトブース』……ですよね?」
「せっ、正解です! 大正解です! えっと……じゃ、じゃあその名前の由来は知ってるですか?」
「えぇ、勿論です。確かーー」
名前の由来……確か、たった1人の人物がこの地に人を呼び開拓し続けることで村に発展させ、遂には街にまで発展させたんだよな。
それでその人物というのが初代領主となった『ホワイト』であり、1人の頃は家ですらない仮設小屋……謂わゆる『ブース』に住んでいたことから『ホワイトブース』という名称になったって話だ……と、そのままムツコに伝えた。すると……
「ほぇ〜、なるほど〜、初めて知ったです!」
「えぇっ!? 初めて知った!? なら何故聞いてきたんですか!?」
「そっ、それは話題を変えるためです! てへっ!」
「てへっ! って……」
てへが下手すぎる……ウインクや舌出しせずに言葉だけなんて、やり慣れてないのが丸分かりだ。というか、そもそも街の名称を聞くこと自体が下手してるんだよな、残念だけど……
とはいえ、そういう残念さがムツコらしくて可愛いなと思ってしまう俺。そして少しの間、温かい眼差しで「えへへっ!」と笑うムツコのことを眺めていた。だがその時……
「……!! ムツコさん、止まって」
「えへへ……えっ?」
暗くて視認はできないが、前方から何かが迫ってきていた……
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