勇者がパーティ―をクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら(かつて助けた村娘と共に)、最初は地元民となんやかんやとあったけど……今は、勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?
第21話もう一つの太陽。ライジングサン! そして意外な真実……?
第21話もう一つの太陽。ライジングサン! そして意外な真実……?
「眩き光よ! その力を現し示せ! そして発現せよ! 輝く必滅の力を!!」
ノルンの雄々しい叫びが響き渡った。
強い覇気の宿った声が空へ波紋のように広がる。
アークデーモン達は怯んで、その場に釘付けられた。
その間にも、天高く掲げられたノルンの腕には、眩い輝きが収束し始めていた。
空の上は大地の上よりも遥に太陽が近い。故に、その力を集めることは、ただの人となったノルンでも可能だった。
陽の光は世界を照らす恵の光。同時に全てを焼き尽くす脅威の力。
そんな両面を持つ力がノルンの腕へ収束してゆく。
「くっ……!」
左手が激しく燃えている。
その痛みにノルンは顔をしかめた。
収束する輝きによって、腕が強い痛みを感じるほど熱い。鉄壁防御を誇る鎧を身に纏い、聖剣を所持していた頃はその加護によって、こんな熱など微塵も感じることはなかった。
それでも収束を止めるわけには行かない。痛みに負けてはいけない。
足元には傷ついたオッゴが。ゾゴック村の人々と皆を守るボルが。
遥遠くのヨーツンヘイムでは村で暮らす皆が、ゴッ君が、そしてリゼルが、ノルン達の無事の帰還を待ち望んでいるのだから!
「おおおおっ!!」
ノルンは吠え、腕に集った輝きは最高潮に達する。
もはや魔物ども強い光に照らされて動くことは叶わない。
「め、滅せよ、邪悪な存在よ! ライジングサン――ッ!」
奇跡の名が叫ばれ、それを合図に膨らみ切った輝きがノルンの腕から放たれた。
太陽の力を収束して放つ、神々しく輝く光の球の魔法ーーまさにそれは夜明けの輝き――ライジングサン!! ノルンが生み出した、もう一つの太陽!
もう一つの太陽は最前列のギガデーモンバットを一瞬で藻屑に変えた。
中心に達し、眩いが輝きが広がってゆく。魔の眷属を飲み込み、灰へ、塵へ。
目前を塞いでいた40もの魔物は、影ひとつ残さず、空から消えていなくなった。
しかし困ったことに、もう一つの太陽は未だ勢いを失わず、その場に滞留したままだった。
さらにゆっくりとだが、確実に地上へ向けて落下を始めている。
(くそっ! やはり今の俺では制御しきれないのか!?)
ならば腕を失う覚悟で、発生させた太陽を叩き潰すしかない。
これを生み出したのは自分の責任。後始末までやるのが、やった本人のすべきこと。
『ガァァァァ!!』
その時、稲妻のような轟が響き渡り、巨大な影が素早くもう一つの太陽をパクリと飲み込んだ。
長城のように長く、山のように巨大なソイツは目の前でとぐろを巻き始める。
『甘露ぉ! 甘露ぉ! これこそバンシィの味! 大好きな、バンシィの魔力の味ぞぉ!! いやっほぉー!』
突然、目の前に現れた灰色の龍――大神龍ガンドールは長い身体をクネクネさせて、とても満足そうだった。
「助かったぞガンドール。しかし何故……?」
『心の友の気配を感知できぬほど、オレは薄情ではない! しかもお前の味がする、お前の魔力が食えたのだ! これを喜びと言わずとして、なんというか! ぬわっはは!!』
助かったことは確かだし、ありがたくもある。
それでもどこか、微妙な気持ちを抱くノルンなのだった。
「クゥーン……! クゥーン……!」
そんなノルンの足元では、客室を一手にになったボルがいた。
彼女はアークデーモンの槍によって傷ついたオッゴの腹を、切なげに舐め続けている。
「クゥーン!? ククゥーン!?(オッゴ君、大丈夫!? 痛い!? 苦しい!?)」
「ガ、ガガン……!(だ、大丈夫だよ、心配しないでボルちゃん。勇者様が治療してくださったから……)」
「クゥン! クゥン! クゥーン!(良かった! 本当に! オッゴ君、私が傍に付いてるからね! 頑張ってね! だから私を1人にしないでね! ずっとずっと、私はオッゴ君と一緒に居たいんだからね!)」
「ガガ、ガオォーン!(も、もちろんさ! 大好きなボルちゃんを1人にするもんか!)」
「クゥーン……(オッゴ君……)」
「ガオ……!(ボルちゃん……!)
『ほほ! 傷ついてもなお、愛を語らい、空中で乳繰り合うか! 良いぞ、良いぞ、若き雌雄の飛龍よ! 愛は力! 愛は至高の宝! まさにバーニングラブ! オレも久々にむずむずするぞぉ! なぁ、バンシィ! 我らも愛し合おうではないか! のぉ! 心の友よぉ!』
とっても興奮しているガンドールは、妙な視線と妙な言葉をノルンへ向けてくる。元勇者のノルンでも、神龍に睨まれれば、怖いものは怖い。
「なんだ、その……分からなくもないが……だが、なんだ、その……申し訳ないが、俺は男同士は遠慮願いたいからして……」
『何を言っておる! オレは雌ぞ!』
「な、なに!?」
『オレはこんなつぶらな目をしておるのだぞ? 雌に決まっておろうが! ぬわーっはっはっは!』
「……」
『これでも只の龍だったころは、数多の雄龍どもがオレを求めて争っていたわ! 龍界の元祖アイドルとはオレのことだ! ぬわっーはは!!』
ただただガンドールの衝撃の事実に、空いた口が塞がらないノルンなのだった。
しかし話をここで終わりにするわけにはいかない。せっかく、またガンドールと会えたのだから。
「ガンドール、愛云々はまた後日にして欲しい。色々と急いでいるわけで……」
『なんだ、まだ要件とやらは終わってなんだか……』
「すまん。そして迷惑ついでに、俺たちをヨーツンヘイムまで飛ばして貰えるとありがたい」
『まぁ、良かろう。バンシィの甘くて、ちょっと苦いが、しかし美味い魔力をオレの血肉にできたのだからな』
「助かる! ありがとう!」
『代わりに次こそは頼むぞ? 約束しろよ? 激しく! オレが満足するまで! 数多の時間をかけて!』
「け、検討しておく」
とりあえずお茶を濁す回答をしたが、それ以上ガンドールからの追及はなかった。
こういう時、大らかで、細かいことをあまり気にしない神聖の性分は大変助かる。
『さぁ、今一度行くぞ、バンシィ! そして若き雌雄の飛龍達よ! 飛べ、世界の果てまで! ガァァァァ――!!』
かくしてノルン達は、再びガンドールの力を借りて、飛び出し帰路へ着く。
ガンドールの魔力にすっぽりと覆われ、未だに傷が癒えないオッゴも、ボルに支えられてなんとか飛行ができている。
仲睦まじい雌雄の飛龍を見て、不思議とノルンの脳裏へ、ヨーツンヘイムで帰りを待っているリゼルの姿が浮かんだ。
そういえば、彼女が持たせてくれた弁当を未だ食べていなかったと思い出し、雑嚢から取り出す。
野菜と肉がぎっしりと詰まったボリューム満点のサンドイッチだった。
(優しい味だ……)
味は文句なしに美味く、なによりもノルンの好みをわかってくれていることに深く感謝する。
(帰ったら旨かったことの礼を言おう。待っていてくれ、リゼル。少し早いが戻るぞ!)
⚫️⚫️⚫️
「ありゃなんだ……? 鳥か?」
「流れ星? いや、まだそんな時間じゃ……」
「お、おいアレってオッゴとボルじゃないか!? 予定よりはぇーぞ! おーい!! みんな! オッゴとボルが戻ってきたぞぉ!」
「い、急げ! ガルスと、ハンマ先生と、グスタフさんと、ああっ!、リゼちゃんにも!! 管理人さんが早くしてくれたんだ! もたもたすんなぁ!!」
想定以上に早いノルンの帰還にヨーツンヘイムは騒然としだす。
無理もなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます