第95話 若干空気が読めない異世界組
「例えばですけど、貴族はたいていが家と家の政略結婚なので愛のない子供を作りつつも、それとは別に本当に愛する人と子供を作りますよね? つまり愛と子供は完全にイコールというわけではないわけです」
「ああうん、たしかにリエナの言うとおり『オーフェルマウス』の貴族はそんな感じだったな」
極めて特別な身分である皇族ですら自由に恋愛して、好きな相手と結ばれて海外に住むことができる日本とはえらい違いだと思ったもんだ。
「つまりそういうことです」
リエナはドヤ顔で言ったんだけど。
「つまりそういうことです、じゃないんだもん! ここは日本なんだもん! 一夫一婦制なんだもん! でもでもそれだとリエナちゃんはこの世界で一人きりになっちゃうし……えっとだから、その……この話はとりあえず保留で! こんなの高校1年生で答えが出るわけないでしょ!」
ハスミンがややキレ気味な口調で、でもいたって冷静な内容で話をまとめた。
単なる恋愛関係だけで終わらない問題だけに、いったん棚上げにするようだ。
「俺もハスミンの案に賛成だな。それにしばらくすれば、リエナにも素敵な相手がみつかるかもしれないしな」
「……そう、ですね」
「だろ?」
「はい……。ハスミンさんにも、しばらくはご迷惑をおかけしますね」
「ううん全然だよ。だってリエナさんはわたしの命の恩人なんだもん。リエナさんが来てくれなかったら、わたしは多分あのまま魔王になっちゃってたと思う。それで大切な人を――修平くんを殺しちゃってたはず」
「そうだぞリエナ。リエナが来てくれたおかげで魔王カナンがこの世界に逃げ延びたことが分かって倒すことができたんだ。リエナはこの世界を救った最大の功労者だよ」
「ハスミンさん、勇者様……温かいお言葉ありがとうございます。それでは当面のところは、この世界に慣れることを優先して過ごしていこうと思います」
「わたしも協力するね。って言っても、普通の高校生にできることなんてあんまりないだろうけど」
「もちろん俺も協力するぞ。ま、リエナならすぐにこの世界にも慣れるだろうけどな」
なにせリエナときたら、100年に一度の天才って言われるくらいに普通の人間とは頭の出来が違うんだから。
例えば、俺は『オーフェルマウス』で勇者権限を使って「マイ箸」を作ってもらってそれを使っていた。
そうしたら、興味を持ったリエナも真似して箸を使い出したんだけど。
あっという間に俺より上手に使いこなすようになったのはかなり衝撃的だった。
最初なんて俺がちょっと使って見せただけで、
『なるほど、原理と持ち方は分かりました。下は固定しておいて、上だけを動かしてるんですね。これだけで色んな動作ができるなんて、とても便利な道具ですねぇ』
って当たり前のように言われたからな。
――と、ハスミンとリエナと話していると。
コンコンと部屋のドアがノックされて母さんが入ってきた。
紅茶とちょっと高そうなマカロンを乗せたお盆を持っている。
おっと母さん、見栄をはったな?
どう見ても子供に出すグレードじゃないぞ。
っていうか俺、生まれてこの方この家でそんな高そうなお菓子を食べさせてもらった記憶がないんだけどな?
きっと母さん専用の秘密のお菓子箱がどこかに隠してあるよね?
「ふふふ、少し心配してたんだけど話が弾んでるみたいで安心したわ。じゃあね、お菓子でも食べてどうぞごゆっくり」
そして母さんはそれだけ言って、すぐに俺の部屋を後にした。
多分だけど、俺がちゃんと女の子と話せているか心配だったんだろうな。
「とりあえず話も一段落したところだし、冷めないうちに紅茶を飲むか」
「賛成ー」
「ですね」
その後は3人でマカロンを食べながら紅茶を飲んだ。
そして主に俺が異世界にいた頃の話をハスミンに聞かせてあげる。
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