第94話 帰還勇者の冷静ツッコミ
「それじゃあリエナちゃんは、もうこの世界で生きていくしかなくて。なのにこの世界でリエナちゃんの素性を知っているのは、わたしたちだけしかいないってことなんだよね……」
「ハスミンさん、そんなに心配そうな顔をされなくても大丈夫ですよ」
心底心配そうなハスミンとは対照的に、リエナは割とあっけらかんとしていた。
さすがリエナ、心が強いな。
「でも……」
「幸いなことに女神アテナイの計らいでお金はたくさんあります。それにこの世界はとても素敵なところなので、勇者様の子供を育てながら静かに余生を過ごしていこうと思っています」
そして突然あほなことを言った。
「修平くんの子供!? ちょ、ちょちょちょっとぉ!? どういうことよ修平くん!? わたしが魔王に身体を乗っ取られている間に、リエナちゃんとまさかの肉体関係!? でもありえなくないよね、ラブホにいたんだし! 修平くんの嘘つき! 浮気者!」
そしてそれに過剰に反応してしまうハスミン。
刹那の一瞬、闇の気配が漂ってハスミンの周囲の空間がぐにゃりとねじ曲がったような気がしたけど、まぁ俺の気のせいだろう。
魔王カナンは今度こそ完全に討滅したのだから。
あの戦いの中、女神アテナイに限りなく存在を近づけていた俺は、魔王カナンの消滅を神の絶対感覚として把握していた。
3度目の復活は絶対にない。
ってことは。
もしかしたら魔王カナンの力の
まぁそれもすぐに消えるだろうから、たいしたことじゃないはずだ。
「落ち着いてくれハスミン。俺とリエナは誓ってそういう関係じゃないから。清い関係だから」
「ほんと……?」
「ほんとほんと。っていうかリエナ、あんまりハスミンをからかうようなことを言っちゃダメだろ? ハスミンは純情な乙女なんだから」
「修平くんのその言い方、なんか変かも……若者っぽくない」
えっ……うそ?
まさか5年の異世界暮らしで、同世代とジェネレーションギャップが発生しているのか?
「すみません、少々言葉足らずでしたね。勇者様との子供はこれから作る予定です」
「リエナ、お前は本当に何を言ってるんだ?」
俺が鋼メンタル持ちじゃなかったら今頃、声を裏返しながら勢いよく「なんでやねん!」ってツッコミを入れてるところだぞ?
俺が鋼メンタル持ちで良かったな。
「愛は無くても、男女がそういう行為をすれば子供はできますので」
「いや、俺は生物学的にどうやったら子供ができるかってことを聞いてるんじゃなくてだな」
「だって私、この世界で勇者様以外に頼れる人がいないんですもん……大切に育てますから、心の支えとして勇者様との子供が欲しいんです」
「……そうは言ってもな」
さすがにそれはどうなんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます