第65話 男女混合スウェーデンリレー(6)

 俺は1周目半ばで1クラス目を捉えると、わずかの余裕も与えずに一瞬で抜き去った。

 そして勢いそのまま2クラス目も抜き、さらには2周目に入るあたりで3クラス目を抜き去る。


(これであと1人、先頭を走る4組だけだ! それもこれもハスミンが必死に差を詰めてくれたおかげだ! その気持ちに何が何でも応えてみせる! 行くぞおおおおっ!!)


 そして俺は350メートル地点でついに最後の一人、1年4組のアンカーを捉えた。


 俺がピタリと背後につくと、


「「「「おおおおおおっっっ!!??」」」」

 観客席からどよめきが巻き起こる。


 さらにラスト20メートルの直線で横に並んだ俺は、そのまま一気に抜き去ろうとして、


(ぐっ、こいつここに来て加速しやがった!? そんな足を残してるようには見えなかったのに――!)


 しかし並んだところで抜ききれず、逆にわずかに前に出られてしまう。


 チラリと横目で表情をうかがうと、俺に負けじと鬼のような形相で歯を食いしばって走っているのが目に入った。

 俺と同じように、向こうも必死に勝とうとしているのだ。


 体育祭の学年別の優勝争いをしている4組と5組だ。


 これが最終種目だから、現在首位の4組が勝てば当然優勝も4組。

 逆に俺が勝てば、俺たち5組の逆転優勝となる。


 つまり4組のアンカーも、クラス全員の期待を背負って走っているのだ。

 そう簡単には負けられないのは向こうも同じだった。


 そして既に100メートルと1500メートルを走り、さらには今400メートルを異次元の超ハイペースで全力疾走してきた俺は、ここにきてさすがに疲労を隠しきれないでいた。


 身体が鉛のように重く、あとほんの少しだっていうのに、どうしても4組アンカーをかわすことができない。


 そうこうしている間に、ゴールテープがぐんぐんと近づいてくる。



『さあ最後の叩きあいだ! どっちも譲らないガチンコ勝負! 1年生の学年別優勝がかかった熱い戦いを制するのは、4組か5組か! 勝つのはどっちだ!?』


 実況が今日一番のハイテンションを見せるなか、俺は勇者時代に培った冷静な判断力で現状を分析していた。


(もし――もしバレないようにほんの一瞬だけ勇者スキルを使えば、楽に勝つことができる。そうすればバトンを落としたハスミンはすごく喜ぶだろう)


 ほんの一瞬ならスキルを使ってもバレはしない。

 勝ちたいなら使えばいい。

 イチイチ分析するまでもない簡単な結論だ。


 ――でも。


 俺は今日だけは絶対に勇者スキルを使わないって決めていたんだ。

 チートなしの自分の力だけで、この体育祭というお祭りを楽しもうと決めていたんだ。


(なにより、今の俺にはもっと大事なことがあるから!)


 アクシデントでバトンを落としてしまったハスミンは、ある程度立ち直ったとはいえ大きなショックを受けたのは間違いない。

 それでもハスミンは涙をこらえてバトンを拾って、必死に俺へと繋いでくれた。


 俺はハスミンのそんな健気な気持ちに、勇者スキルなんてズルを使わずに俺だけの力で――織田修平っていう一人の人間として応えたいんだ!


 だからもうあと少し!

 あと少しでいいから!


(俺の足よ、駆けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!)


 ゴールまであと数メートルで、俺の身体が再び4組のアンカーと並んだ。

 もうゴールは目前、1秒もかからない。


(抜く――!)


 最後の最後。

 持ちうる全ての力を注ぎこんだ俺の身体が、ゴールテープを切った――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る